就労移行支援とは、発達障害*を含む障害を持つ人が、職業訓練や職場探し、定着支援などのサポートを受けながら、適性に合った職場への就職を目指す制度です。就労移行支援をしているKaienでも、毎年、正社員として企業に雇用される人がいます。
今回は、就労移行支援を利用すれば正社員になれるのか、契約社員やパート・アルバイトから正社員に移行できるのか、契約社員やパート・アルバイトから始めるメリット、賢い会社の選び方などを解説します。ぜひ、ご自身の就職活動を考えるきっかけとしてお役立てください。
就労移行支援の全体像については下記記事で紹介しています。
就労移行支援とは?受けられる支援や利用方法をわかりやすく解説
就労移行支援の利用から正社員になれる?
結論からいえば、就労移行支援を利用した就職では、大半の人が契約社員として入社し、その後、正社員にステップアップしています。Kaienの就労移行支援を通じて就職した方の、勤務開始時の雇用形態を集計した以下の表をご覧ください。
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
---|---|---|---|
アルバイト・パート | 17.2% | 12.2% | 12.2% |
契約社員 | 77.2% | 78.3% | 75.6% |
正社員 | 5.5% | 9.4% | 12.2% |
※その他・無記載を除く
データをみてもわかるように、就職時点で正社員であった人は全体の5.5%~12.2%と少ない割合です。最も多いのは契約社員による雇用で、近年では77.2%~78.3%となっています。
しかし、正社員の雇用割合が増加傾向にあることも見逃せません。2021~2023年において正社員雇用の割合は5.5%→9.4%→12.2%と徐々に増えているのです。
それでもなお、この集計をみて、「やはり正社員になるのは厳しいのね・・・」とがっかりされた方もいるかもしれません、でもご心配なく、そんなことはありません。上記集計データは、あくまで『就職時』の雇用形態です。実は契約社員として就職された多くの人たちが、入社後に正社員として登用されています。
契約社員から正社員になれるケースも多い
各訓練拠点で定期的に開催している 懇親会の場で修了生から、「正社員になれました!」という嬉しい報告をよくして頂きます。入社時点では契約社員ですが、一定期間様子を見たあとで積極的に正社員として登用する企業が最近増えてきたように感じます。
具体例をひとつ挙げると、昨年からKaienとつながって頂いたある大手物流関連企業。現在Kaienから紹介した修了生6名をお雇い入れ頂いていますが、入社1年も満たないKaien修了生4名を先月正社員として登用していただきました。
では、なぜ初めから正社員として雇っていただけないのでしょうか?それはやはり、雇用する企業側に取っても、人一人を正社員として雇用するのは大きな決断だということです。発達障害当事者の方の多くは遅刻欠勤が少なく、安定していますが、それでもいろんなタイプの人がいます(発達障害に限ったことではないですが・・・)。ある程度働いてもらい、様子を見て勤怠の安定や職場との相性を確認してから晴れて正社員登用、と考えている企業が多いようです。
現在利用中の訓練生の皆さんにもしょっちゅうお伝えをしていることですが、入口の雇用形態にこだわり過ぎていては応募すらままなりません。地道に働きながら実力を示し正社員として認めてもらおう、という気概が必要だと思っています。
契約社員やパート・アルバイトから始めるメリットもある
就職するなら正社員がよいという人も多いと思いますが、契約社員やパート・アルバイトから始めるメリットもあります。ここでは、「選択肢が広い」「応募がしやすい」「自分のペースで働ける」の3つのメリットを解説します。
正社員に比べて求人数が多い
契約社員やパート・アルバイトの求人は、正社員の求人に比べて数が多く、選択肢が広いのが特徴です。そのため、発達障害の人は、自分の適性にあった業務や就業環境を選びやすいのがメリットです。
たとえば、ASD(自閉スペクトラム症)の人のなかには細部へのこだわりが強く、わずかな違いを見抜く人がいます。こうした人は、精密さが要求される検品作業や、ソフトウエアのテスター業務など、自分の強みが発揮できる仕事を選べるのです。
もしも「自分はどのような仕事に向いているのか」「どのような業務ならストレスを感じにくいのか」などがわからない場合も、さまざまな仕事を実際にしてみることで、適性を確認できます。
資格や経験がない場合でも応募できるケースも多い
契約社員やパート・アルバイトでは未経験者歓迎の求人が多く、特別な知識や経験、資格がなくても応募できます。そのため、「まだ一度も就職した経験がない」「ブランクが長いので、即戦力の人材として期待されると不安」といった場合でも、あまりプレッシャーを感じることなく仕事ができるでしょう。
とくに社会復帰という課題がある人は、あれこれ悩むより、簡単な仕事で実際に体を動かしてみるのが効果的です。そして自信をつけてから、就労移行支援で正社員にチャレンジするのもよいでしょう。この際も、契約社員やパート・アルバイトで働いた経験は決してムダにはなりません。
自分のペースで働くことができる
パート・アルバイトは働く日や時間帯を自由に決めやすいのがメリットです。正社員であれば基本的に1日8時間・週5日の勤務になりますが、契約社員やパート・アルバイトであれば時短勤務や時差通勤などで自分のペースに合わせて働けます。
疲労感やストレスを持ちやすい発達障害者にとって、時間の自由度があるのは大きなメリットです。パート・アルバイトであれば週10~20時間程度の求人はたくさんありますし、シフトの要望も聞いてもらいやすいでしょう。
正社員で雇用されたとしても、業務内容や責任がハードで症状が悪化し、休業や離職につながってしまえば意味がありません。パート・アルバイトなら徐々に働ける時間を増やせるため、自分のペースで取り組めます。最終的に正社員をめざすなら、正社員にステップアップしやすい企業にパート・アルバイトから入るのもよいでしょう。
どのような基準で応募先を選べば良い?賢い会社の選び方
それでは、自分の雇用を安定させるためには、どのような基準で応募企業を選べばよいのでしょうか。就労移行支援の現場で得られたいくつかのアドバイスをお伝えします。
①会社自体の安定性も併せて考える
前述したとおり会社にとっても正社員として雇い入れすることは大きな決断です。新卒採用は正社員として雇い入れることが一般的ですが、中途採用は残念ながらそうではないことのほうが多いです。甘い言葉には罠があるとよく言いますが、簡単に正社員になれるように見えたとしたらその求人は要注意です。
残念ながらブラック企業というものはまだまだ実際に存在していますし、そもそも会社が潰れてしまっては安定も何もあったものではありません。会社そのものの安定性と併せて判断する必要があります。
②正社員=安定という考えにとらわれない
労働契約法改正により有期雇用を5年継続すると無期雇用と同様に扱う、いわゆる「みなし制度」が施行されたことで、以前に比べて正社員と契約社員の垣根が低くなりました。
また、正社員だから必ずしも雇用が安定するというわけではありません。人件費が高くつく分だけ、会社の経営状態が傾いたら雇用整理の対象となりやすいという側面があることを念頭に置きたいところです。
契約社員など有期雇用の従業員に、正社員に準ずるレベルの賞与を支給する会社も珍しくはなくなってきました。大手上場企業の障害者枠・契約社員と、中小企業の正社員を比較した場合、私の知る限りでは収入でも安定性でも前者が上回っています。単純に雇用形態だけにとらわれるのではなく、収入や福利厚生、会社規模なども含めトータルで良し悪しを判断していただきたいです。
③過去の正社員登用の実績を調べる
入社後にある程度実績を積んでから正社員にしてくれる会社が増えてきた、と書きましたがもちろん全ての企業がそうしてくれるというわけではありません。どの程度正社員登用の可能性があるかを計るために、応募前に正社員登用実績を確認することができるとよいでしょう。Kaienでは、当社独自開拓求人の応募を検討するご利用者の方に、過去の正社員登用実績などハローワーク経由などの応募ではなかなか事前に知ることができない情報もお伝えしながら、応募の検討をしていただくようにしています。
Kaienは地に足の着いたキャリアを支援します
就労移行支援を利用した就職では、多くの人が契約社員として入社し、その後正社員にステップアップするパターンが主流です。正社員の枠を狙う場合、身体障害の人と競合することが多いため、まずは契約社員、パート・アルバイトから始めることも選択肢に入れるとよいでしょう。
また、公務員の正社員に挑戦する方法もあります。公務員の障害者雇用は身体障害のみでしたが、今は状況が変わり、発達障害の人も多く採用されるようになりました。安定性が高い公務員の正社員枠は人気が高く競争も激しいですが、チャンスは広がっています。
しかし、どのようなプランを立てるにしても、ベストの選択を自分一人でみつけるのは困難です。雇用に関する形態も、それを取り巻く情勢も日々変化・多様化し、以前のように正社員になれば安心という時代ではなくなってきました。
Kaienでは時代の変化に対応しながら、目先のことやイメージにとらわれず地に足の着いたキャリアを積んでいただけるような支援を心がけています。Kaienの就労移行支援や、独自開拓求人の詳細については、Kaienご利用説明会にてお伝えしています。ご興味ある方は是非一度ご参加ください。
Kaienの就労移行支援サービスを活用した就職事例・体験談についても紹介しておりますので、ぜひご参考ください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます