「なんでも人のせいにする人は病気なの?」といった疑問を抱いている人もいるのではないでしょうか。過度になにもかも人のせいにする人がいると、「どこか悪いのではないか」「病気であればどんな病気なのか知りたい」「治療方法は?」と心配や疑問はつきません。
そこで本記事では、なんでも人のせいにする人に考えられる病気について解説します。病気かもしれないと思った場合の治療法や相談先についても紹介しますので、ぜひ参考にして下さい。
なんでも人のせいにする人に考えられる病気とは?
なんでも人のせいにする人に考えられる病気としてパーソナリティ障害があります。
パーソナリティ障害とは精神疾患の一つで、人格障害ともいいます。パーソナリティ障害の特徴は、本人に重大な苦痛をもたらしたり周囲の人を困らせたりするような思考や行動が、長期的・全般的に見られることです。
パーソナリティ障害では、猜疑心や不信感が強いなどの特性から「なんでも人のせいにする」行動を取ってしまう可能性があります。
現在では、パーソナリティ障害と診断されるケースはほとんどないともいわれますが、1つの可能性としてパーソナリティ障害が気になる方は、その特徴を理解しておくのがよいでしょう。
3群に分けられるパーソナリティ障害
パーソナリティ障害は、その特徴や症状をもとに3群10種類に分かれています。以下では、3群10種類それぞれのパーソナリティ障害について、特徴などを順に解説します。
A群のパーソナリティ障害
A群のパーソナリティ障害とは、風変わりな考え方や行動を取る特徴のあるパーソナリティ障害です。A群パーソナリティ障害に分類されるものは以下の3つです。
妄想性パーソナリティ障害
妄想性パーソナリティ障害は、不信感や猜疑心が強いといった特徴のパーソナリティ障害です。周囲の人が信用できず、相手が自分をだましたり裏切ったりするのではないかと常に疑う傾向があります。
根拠なく、周囲の人が自分に対して悪意や敵意を持っていると思い込み、そのように主張することが少なくありません。
また、自分が相手から傷つけられたと感じると、相手にまったくそうした意図がなくとも、相手を許さない傾向があります。相手に一方的に反撃したり、怒ったりして攻撃することも少なくありません。
シゾイドパーソナリティ障害
シゾイドパーソナリティ障害は、他者に対して関心がなく、ひとりでいることを好む傾向のあるパーソナリティ障害です。他者からどう思われるかということに無関心で、友人もほとんどおらず、他人との関わりから距離を置き孤立していることが多いといった特徴があります。
感情表現もほとんどなく、人とのコミュニケーションで、微笑んだり、うなずいたりすることもほとんどありません。挑発されても怒ることができないなど、感情を表すことに困難さを感じる傾向があります。
統合失調型パーソナリティ障害
統合失調型パーソナリティ障害とは、人と親密な関係を築くことを苦手とし、風変わりな振る舞いが見られるパーソナリティ障害です。
統合失調症に名称が似ていて、奇異な行動や思考が見られるなど統合失調症に似た特性が見られるものの、統合失調症とは別の障害です。
統合失調型パーソナリティ障害の人は、通常の社会的慣習を無視したり、他者の反応から感情を読み取れなかったりするため、他者と適切に交流できないことがよくあります。また、自分には魔術的な力や超能力があると考えることもあります。
B群のパーソナリティ障害
B群のパーソナリティ障害とは、感情的または衝動的に振る舞い、周囲を巻き込み問題を起こしやすい特徴のあるパーソナリティ障害です。B群パーソナリティ障害に分類されるものは以下の3つです。
反社会性パーソナリティ障害
反社会性パーソナリティ障害とは、良心の呵責や罪悪感といった感情を持たずに犯罪行為や暴力行為を行う特徴のあるパーソナリティ障害です。
反社会性パーソナリティ障害は、社会的なルールに関心がなく、他者に対する共感性もない傾向があります。自分の行動が他者にどれだけ迷惑で有害な影響を与えていても、そうした影響については関心を示しません。
個人的な利益や快楽のために、人をだましたり欺いたりしても良心の呵責を覚えることはなく、それどころか、だまされる方が悪いと自分の行為を正当化する傾向が見られます。
境界性パーソナリティ障害
境界線パーソナリティ障害とは、見捨てられることに強い恐れがあるあまりに、感情の波が激しく自分の感情の制御ができないといった特徴のあるパーソナリティ障害です。
相手に共感し思いやることはできるものの、相手が自分に対してどのように振る舞うべきかについて高い期待を抱いており、期待通りにならない場合には怒りだすことがあります。例えば、待ち合わせに相手が少し遅れただけで、自分が拒絶されたと感じて、激しく怒ったりパニック状態に陥ったりすることも少なくありません。
怒りを爆発させる一方、後に罪悪感や恥ずかしさを覚え、自分を責めることもあります。
演技性パーソナリティ障害
演技性パーソナリティ障害とは、常に人の注目を集めたいという強い思いから、劇的で不適切な行動を取る傾向のあるパーソナリティ障害です。
学校や職場でも、注目を引くために、派手で誘惑的な衣服を着て来ることもよくあります。周囲の人になれなれしく、あるいは挑発的に接します。行動は活発で芝居がかっており、注目を集めるために嘘をついて人をだますことも少なくありません。
人を誘惑して支配しようとする一方で、人を信用しやすいといった一面もあります。特に自分を救ってくれそうな権威者を妄信する傾向が見られます。
自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害とは、自分を過大評価し注目や賞賛を求める一方で、他者を過小評価し思いやれないといった特徴のあるパーソナリティ障害です。
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分の業績を誇張し、自分は優れた特別な存在だと考えています。自分が優れていることを主張するために、他者を低く評価する傾向があります。また、自分は特別で独特の存在であり、特に優れた人々とのみ付き合うべきと信じており、特権意識を持っていることも特徴です。
自尊心に問題を抱えているとされており、無条件に賞賛されたいという欲求が強く、自己を否定されると過度に落ち込んだり、荒々しく反撃したりします。
C群のパーソナリティ障害
C群のパーソナリティ障害とは、不安や恐れを強く抱いているのが特徴のパーソナリティ障害です。C群パーソナリティ障害に分類されるものは以下の3つです。
回避性パーソナリティ障害
回避性パーソナリティ障害とは、他者から批判されたり拒否されたりすることを恐れるあまり、あらゆる状況を回避しようとする特徴のあるパーソナリティ障害です。
回避性パーソナリティ障害は、自分を価値のない存在と感じていることが多く、他者からの批判をひどく恐れます。他者からの批判や拒絶を恐れるあまり、会社でも昇進を断ったり、会議への参加を拒否したりします。人との関わりも、自分が好かれることが確実ではない限りは関わろうとしません。
自分には社会的能力が欠けている、魅力がない、他人と比べて劣っていると感じる傾向があり、あらゆる状況で引っ込み思案になりやすいといえます。
依存性パーソナリティ障害
依存性パーソナリティ障害とは、自分で自分の面倒をみれないと考え、他者に服従し面倒をみてもらおうとする特徴のあるパーソナリティ障害です。
依存性パーソナリティ障害は、自分で自分の面倒をみることに強い不安を抱いています。そのため、他者に面倒をみてもらうことに必死になり、多大な労力を払うことを厭いません。例えば、面倒を見てくれる人と意見が違っても反論せず言いなりになったり、不快な課題をこなしたりします。
また、自分は何もできないと自分の能力を卑下する傾向があり、批判を受けると、自分の能力のなさの証拠と受け取ってさらに自信を失うといった特徴もあります。
強迫性パーソナリティ障害
強迫性パーソナリティ障害とは、自分の完全主義を追求するルールにのっとって物事を進めないと気がすまないといった特徴のあるパーソナリティ障害です。
強迫性パーソナリティ障害では、自分の考える規則、スケジュール、秩序などにとらわれ、仕事の完成を妨げてでも、特定の物事を完全に行うことを重視します。自分が物事をコントロールできる状態にないと納得せず、何事もひとりで行い、人の助けを信用しない傾向があります。
感情表現も厳格に抑制される傾向がみられ、人付き合いは形式的で堅苦しいものになることが少なくありません。論理や知性を重んじ、感情的な行動や表現には寛容ではない傾向です。
パーソナリティ障害の原因とは?
パーソナリティ障害は、遺伝子と環境との相互作用によって起こると考えられています。遺伝的にパーソナリティ障害になりやすい傾向を持つ人に、環境的な何らかの要因が加わり、その傾向が強められて発症すると見なされています。
例えば、境界性パーソナリティ障害の場合、生活上のストレスにうまく反応できない遺伝的な傾向を持つ人が、子どもの頃に虐待を受けたり親を失ったりして発症することがあります。生まれながらに持っている遺伝的要因に、養育者の愛着の不安定さといった環境的要因が加わり障害が発生したといった形です。
このように、パーソナリティ障害の原因は遺伝的要因と環境的要因の双方が関わっており、一般的に遺伝子と環境は障害の発症にほぼ同等に寄与すると考えられています。
パーソナリティ障害と発達障害は似ている?
パーソナリティ障害と発達障害*は、似ているといわれたり混同されたりすることがあります。
似ているとされている点は例えば下記のような点です。
- シゾイドパーソナリティ障害とASD(自閉スペクトラム症)
- 自己愛性パーソナリティ障害とASD(自閉スペクトラム症)
- 強迫性パーソナリティ障害とASD(自閉スペクトラム症)
A群のシゾイドパーソナリティ障害の自閉的な特性は、ASD(自閉スペクトラム症)の特性に類似しており、鑑別が困難といわれることもあります。
また、ASDには、高圧的に振る舞い相手を見下す尊大タイプがあり、B群の自己愛性パーソナリティ障害に特性が似ているとされることも少なくありません。
C群の強迫性パーソナリティ障害も、そのこだわりの強さがASD(自閉スペクトラム症)に似ているといえるでしょう。
このようにパーソナリティ障害と発達障害とは似ている点が多く、パーソナリティ障害と思っていても医師の診断を受けると、発達障害と診断される場合もあります。
パーソナリティ障害かも?と思った時の相談先
パーソナリティ障害かも?と思った場合には、下記のような相談先があります。
- こころの健康相談統一ダイヤル:全国共通で、電話をかけると地域の公的な電話相談窓口につながります。
- 働く人の「こころの耳相談」:働くひとのメンタルヘルスのサポートサービスで、電話やSNSでの相談が可能です。
- 精神保健福祉センター・保健所:各地域にあるこころの病気について幅広く相談できる専門支援機関です。
- 医療機関(精神科、心療内科):パーソナリティ障害の診断を仰ぐことができます。
パーソナリティ障害の診断を受けたい場合は、精神科や心療内科などが専門科です。ただしパーソナリティ障害は、診断できる専門家の数がそれほど多くはありません。 医療機関を訪れる際は、事前にパーソナリティ障害の診断に対応しているか確認しましょう。
パーソナリティ障害の治療法
パーソナリティ障害の治療法は、精神療法が基本です。精神療法とは、人間同士の交流を通して症状や苦痛などに介入する治療方法のことです。人間同士の交流とは、通常は言葉のやり取りによって行われ、絵画や音楽、ダンスなど言語以外の手段によることもあります。
治療は本人が治療したい、変わりたいという意欲がある場合に効果が高まる可能性があるといわれています。
また、薬物療法は、精神症状により生活や治療に影響がある場合にのみ行われる傾向にあります。なぜなら、服薬することで、抑うつや不安などの症状を和らげることができるものの、薬ではパーソナリティ障害自体を治癒することはできないとされているからです。
パーソナリティ障害でお悩みの場合は適切に専門家に頼ろう
なんでも人のせいにするというのは、パーソナリティ障害の可能性もあります。
パーソナリティ障害とは、大多数の人とは異なった思考や行動で仕事や生活に支障をきたす障害です。ただし、最近はパーソナリティ障害と診断されるケースは少なく、診断も簡単ではないといいます。
パーソナリティ障害かもしれないとお悩みの場合には、適切に専門家に頼るようにしましょう。パーソナリティ障害の診断を仰ぐ場合は、パーソナリティ障害に対応する専門医がいる精神科か心療内科に問い合わせることが大切です。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。