自分や周りの人に「嫌なことから逃げる」という行動が見られ、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。こうした行動は、アスペルガー症候群の特性と結びつけられることがあります。しかし、一概に「アスペルガー症候群だから逃げ癖がある」とは言えません。
本記事では、アスペルガー症候群の特性や、嫌なことから逃げる行動の背景にあるさまざまな要因について解説します。大人の発達障害の相談先も紹介しているので、自身の特性に悩んでいる方や支援を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
アスペルガー症候群(ASD)とは?
アスペルガー症候群は発達障害のひとつで、現在では「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統一されています。ASDの特徴として、社会的なコミュニケーションや対人関係で困難を感じることが挙げられますが、その特性や程度は個人によって大きく異なります。
例えば、ASDのある人は、言葉の裏にある意図や感情を理解するのが苦手で、相手との誤解が生じやすくなるケースがあります。そのため、対人関係に困難を抱える方が少なくありません。
また、こだわりの強さもASDの特性のひとつです。特定のルールや日常のルーチンに対するこだわりが強く、計画通りに物事が進まないとストレスを感じることも珍しくありません。
さらに、感覚が過敏になる傾向があるため、例えば強い光や大きな音に圧倒されたり、肌に触れる素材に敏感になったりする場合があります。
嫌なことから逃げるのはアスペルガー症候群の特徴?
ASDの特性として、自分の興味や関心があることに没頭する一方、関心のないことには消極的な傾向があります。このため、周囲からは「嫌なことから逃げている」と誤解されることもあるでしょう。例えば、日常生活や仕事で求められる作業であっても、自分のこだわりやルールから外れる内容に対しては、強い拒否反応を示すことが少なくありません。
また、ASDの方は特定のルールやこだわりを重視するため、予定外の作業や柔軟な対応を求められる場面では苦手意識を持つことが多く、結果として「逃げている」と見られるケースもあります。しかし、これらの行動は単なる「逃避」ではなく、ASDの特性によるものと理解することが重要です。
ADHDの先延ばし癖も嫌なことから逃げると見られる場合も
ASD以外に、注意欠如多動症(ADHD)の特性も「嫌なことから逃げている」と見られてしまう場合があります。ADHDはASDと同じく発達障害のひとつで、「集中力が続かない」「じっとしているのが苦手」「物をなくしやすい」といった特性を持っています。
また、計画的に行動することが苦手で、やるべきことを後回しにしてしまう「先延ばし癖」が見られる方も少なくありません。この先延ばし癖は、周囲から「嫌なことを避けている」「逃げている」と誤解されることがあります。
しかし、ADHDの方の場合、必ずしも嫌だから避けているわけではありません。優先順位をつけるのが難しかったり、作業を始めるためのやる気がなかなか湧かなかったりすることが原因であるケースが多いです。
嫌なことから逃げる理由はさまざまな観点から説明できる
「嫌なことから逃げる」という行動は発達障害と結びつけられがちですが、実際にはさまざまな要因が絡んでいる可能性があります。例えば、思春期特有の心理的な不安定さや、アダルトチルドレンに見られる愛着的な問題、さらにはうつ病や不安障害などの精神障害が背景にあることも少なくありません。
また、個人の性格や特性だけでなく、職場や家庭といった本人にはどうにもできない環境要因が大きく影響しているケースも多く見られます。過剰なプレッシャーやストレス、不適切な環境が逃避行動を引き起こしている場合も多いでしょう。
このように、「嫌なことから逃げる」という行動を引き起こす要因は多岐にわたるため、一概に決めつけず、さまざまな観点から原因を探ることが大切です。
大人の発達障害の相談先
大人になってからADSやADHDと診断される、「大人の発達障害」を抱える方も少なくありません。発達障害の特性によって働きづらさや生きづらさを感じる場合は、以下で紹介する相談先や福祉サービスの利用を検討してみてください。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターは、発達障害のある方やその家族を対象に、総合的な支援を提供するための専門機関です。生活全般や就労に関する相談に応じるだけでなく、必要に応じて医療機関や福祉サービスへのつなぎ役も担っています。
また、一人ひとりの障害特性に応じたアドバイスや具体的な支援計画を提供しており、発達障害に関する幅広い悩みを相談できます。各都道府県に1つ以上のセンターが設置されているので、最寄りのセンターに相談してみましょう。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、就業や日常生活の困りごとについて相談できる総合的な支援機関です。就労に向けた準備や職場への定着支援、日常生活の課題解決に向けたアドバイスなどを行っています。
利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付くため、仕事と生活の両面で支援を受けられるのが特徴です。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、発達障害を含め、障害のある方の就労支援に特化した機関です。ハローワークと連携しながら、就業のための訓練や支援を提供しています。
具体的には、職業適性を評価する「職業評価」や、就労に必要なスキルを身につける「職業準備支援」などを提供しており、就業への準備を総合的にサポートします。また、職場にジョブコーチを派遣し、職場環境の整備や本人の定着支援など、雇用主と連携しながら障害者の就業をサポートしているのも特徴です。
ハローワーク
ハローワークは、職探しをする人をサポートする公的機関です。全国のハローワークは障害のある方を対象とした専門窓口を設置しており、専門知識のあるスタッフが仕事探しや職場定着に関する相談を受け付けています。
また、障害者雇用に関する情報を提供しているため、自分に合った職場を見つけやすいのもメリットです。応募書類の作成支援や面接指導も実施しているため、就職活動に関する不安や困りごとがある場合は気軽に相談してみましょう。
就労移行支援
就労移行支援は、障害のある方が一般企業への就職を目指す際に利用できる福祉サービスです。発達障害を含むさまざまな障害の特性を持つ方に向けて、働くためのスキルやビジネスマナーを学べる場を提供しています。
具体的なサービス内容としては、履歴書や職務経歴書の作成、面接練習、職場でのコミュニケーションスキルの向上、職場定着のための支援などが挙げられます。
就労移行支援では、一人ひとりの利用者の特性や希望に応じた個別支援計画を作成するのが特徴です。そのため、「まずは自分の特性を理解するところから、ゆっくり取り組みたい」という方から、「今すぐにでも就職活動を始めたい」という方まで、自分のペースで進められます。
発達障害に特化した就労移行支援事業所もあり、ASDの特性に合わせて専門的な支援を受けられます。自宅から通いやすい場所に、希望する事業所があるかどうか確認してみましょう。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が日常生活に必要なスキルを習得し、自立した生活を送れるよう支援する福祉サービスです。地域で自立した生活を目指している方や、今後の就労や社会参加を希望する方が対象となっています。
具体的には、食事の準備や掃除、洗濯などの家事スキルの向上をサポートします。さらに、金銭管理の方法や健康維持のための生活習慣の見直し、対人関係のスキル向上といった、社会生活に必要な支援も行います。
このように、自立訓練(生活訓練)は、まず安定した日常生活を送れるようになることが目標です。そのため、「就職活動を始める前に生活基盤を整えたい」といった方に適しています。
一人で悩まずに支援先を頼ろう
「嫌なことから逃げる」という行動は、ASDやADHDといった発達障害の特性が関係している場合があります。しかし、その他にもさまざまな要因が考えられ、一概に発達障害だけが原因とはいえません。そのため、逃避行動の理由を多角的に考え、適切なサポートを受けることが重要です。
発達障害の特性によって生きづらさや働きづらさを感じている方は、一人で悩まずに支援機関や福祉サービスを頼ってみてください。本記事で紹介した通り、さまざまな支援先があります。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)の利用を検討している人は、ぜひKaienへご相談ください。Kaienでは、発達障害に特化した支援プログラムを提供しており、見学・個別相談会やオンライン個別相談も実施しています。まずはお気軽にお問い合わせください。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。