「もしかして、自分は軽度のASDなのでは?」「家族がASDかもしれないけれど、どうすればいいの?」といった悩みを抱えている方も多いでしょう。ASDは人によって特性の表れ方や程度が異なり、症状が軽いと周囲の理解やサポートが得られずに苦労するケースもあります。
この記事では、「軽度のASD」とは一般的にどのような状態を指すのかを解説したうえで、ASDの特徴や困ったときに相談できる支援機関を紹介します。
軽度のASD(自閉スペクトラム症)とは?
軽度のASD(自閉スペクトラム症)とは、ASDの特性が比較的弱いものの、日常生活や対人関係で困難を抱える状態を指すことが多い言葉です。
そもそもASDとは、人とのコミュニケーションが苦手だったり、独特のこだわりを持っていたりする特性が見られる発達障害の一種です。以前は「自閉症」や「AS(アスペルガー症候群)」「広汎性発達障害」と呼ばれていました。原因ははっきりと分かっていませんが、多くの遺伝的要因などが複雑に絡み合って起こる先天的な脳機能障害と考えられています。
「軽度ASD」という言葉は医学的な診断名ではなく、ASDの中でも症状が比較的軽いと感じる方や、診断には至らないもののASDの特性を持つ「グレーゾーン」と呼ばれる方を指すケースが多く見られます。医学的な定義がないため、「このような人が軽度ASD」と明確に区別できるものではありません。
軽度発達障害とは?
「軽度のASD」という言葉とともに、「軽度発達障害」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
軽度発達障害とは、かつて使われていた言葉で、知的障害を伴わない発達障害のことを意味します。
具体的には、知的な遅れのない高機能自閉症、アスペルガー症候群、学習障害*²(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などを指し、「知的障害が軽度である」という趣旨で使われていました。
「軽度発達障害」という言葉から「軽い障害である」と思われることも多いのですが、こうした発達障害では、知的な遅れがなくとも、重篤な困難さを持つケースが少なくありません。
「軽度発達障害」という言葉を使うことで、「障害そのものが軽度である」と誤解されることを危惧して、現在は使われないようになりました。平成19年3月には文部科学省からも「軽度発達障害」という表現を、原則として使わない旨の通達がなされています。
また、軽度発達障害は、いわゆる「グレーゾーン」と混同されているケースも見られます。軽度発達障害とグレーゾーンとの違いは、軽度発達障害が発達障害であるのに対し、グレーゾーンは発達障害とは明確に診断されていないといった違いがあります。
軽度発達障害とは、先ほども触れた通り、発達障害と診断される中でも、知的な遅れのないもののことです。
一方、グレーゾーンとは、発達障害特有の症状や特性が見られるものの、診断基準を満たしているわけではないため、発達障害だとはっきりと診断できない状態を指します。
なお、グレーゾーンとは、正式な病名や診断名ではありません。医師から「発達障害だとはっきりとは診断できませんが、発達障害の症状や傾向は見られます」などといわれたときに、グレーゾーンであると判断されます。
グレーゾーンについて詳しく知りたい方は、「発達障害グレーゾーンとは?特徴や困りごと、対策についても解説 」の記事も参考にしてください。
参考:厚生労働省「政策レポート(発達障害の理解のために)」
参考:文部科学省「「発達障害」の用語の使用について」
ASDの特徴
ASDの方には、コミュニケーションの苦手さや強いこだわりなど、さまざまな特徴があります。特徴の種類や程度は人によって異なり、困難を感じる場面もさまざまです。ここでは、ASDの主な特徴について詳しく見ていきましょう。
コミュニケーションが苦手
ASDの特徴のひとつに、コミュニケーションの難しさがあります。対人関係を築くのが得意ではなく、相手の気持ちを汲み取ることや空気を読むのが難しいうえ、暗黙のルールを理解するのも苦手です。また、会話の流れをつかみにくく、相手の言葉の意図を誤解してしまうことも。
そのため、周囲に「変わっている人」と思われたり、話が噛み合わなかったりする場面が多く、友人関係がうまく築けない方も少なくありません。ASDの方はこうした理由から人付き合いに苦手意識を持ち、孤立しやすい傾向が見られます。
こだわりが強い
特定のルールやルーティンに強いこだわりを持つのも、ASDの特徴のひとつです。具体的には、物の位置や行動の順番、勝敗へのこだわり、特定の興味関心への強い集中などが挙げられます。
こだわりの内容や程度は人それぞれで、日常生活に大きな支障が出るケースも少なくありません。例えば、特定の食べ物しか食べられなかったり、服の素材や着る順番に強いこだわりを持っていたりする方もいます。
また、自分のやり方が崩れると強いストレスを感じ、気持ちを切り替えるのが難しくなることも。さらに、一度決めた方法を変えるのが苦手で、状況に応じた柔軟な対応が難しい点もASDの特徴のひとつです。
環境の変化や急な予定変更が苦手
こだわりの強さにも関連しますが、環境の変化や急な予定変更に強い抵抗を感じる方も多くいます。ASDの方は自分なりのルールや決まった流れが崩れると不安やストレスを感じやすく、気持ちの切り替えに時間がかかることも珍しくありません。
人によっては、新しい環境になじむのに時間がかかったり、急な変化に直面するとパニックになったりするケースもあります。慣れた場所や決まったスケジュールのほうが安心しやすく、想定外の出来事には強い不安を覚えがちです。
感覚過敏や感覚鈍麻
ASDの方の中には、感覚が過敏な場合や、逆に鈍い場合が見られます。特定の刺激に対して過剰に反応する状態を「感覚過敏」、特定の感覚が鈍い状態を「感覚鈍麻」といいます。
感覚過敏のある方は、音や光、匂いなどに敏感で、不快感やストレスを強く感じてしまいます。例えば、「大きな音が苦手で、学校や職場の雑音に耐えられない」といったケースです。
一方、感覚鈍麻があると痛みや温度の変化に気づきにくく、怪我や体調不良を自覚しづらい傾向があります。
このような感覚過敏や感覚鈍麻があると、周囲との感覚の違いによって学校や職場で生活するうえで負担を感じる場面も多く、日常生活に影響が出る方も少なくありません。
ASDの診断方法とは?
ASDの診断方法は、子どもと大人で異なります。
子どもの場合、まず親や教師が観察した子どもの様子をもとに、医師や心理士が発達状況を評価します。その後、診断用のテストや質問票を用いて、ASDの特性に該当するかを判断するという流れです。
大人の場合は、本人との面談や検査によって診断を進めます。具体的には、ASDの特性について詳しく質問する「ADI-R(自閉症診断面接)」や、検査者とのやりとりを観察して評価する「ADOS-2(自閉症診断観察検査 第2版)」などの検査が用いられます。
診断を受ける際には、日々の困りごとをメモしておいたり、幼少期の様子がわかる保育ノートなどを持参したりすると、スムーズに進められるでしょう。
いずれの場合も専門家による総合的な評価をもとに診断が行われるため、「ASDの特徴に当てはまるものが多いから自分はASDだ」と自己判断するのは避けましょう。
ASDは治療できる?
ASDは病気ではなく、脳の機能による特性のひとつです。「治療すれば特性がなくなる」というものではなく、生まれつきの特性として一生続くものと考えられています。
ASDと診断を受けた場合、まず「どのような特性が強く表れているのか」「どのような困難を感じているのか」を明らかにすることが大切です。そのうえで、日常生活や仕事をより快適に過ごせるよう、医師など専門家の助言を受けながら自分に合った対処法を見つけていきます。
このように適切な対処法を学んで必要な支援を受けることで、ASDの特性による困りごとを軽減し、より自分らしく生活できるようになります。
ASDの二次障害にも注意が必要
ASDの特性による強いストレスや負担が続くと、ほかの精神的な症状が現れることがあります。このように、ASDの特性が原因となって引き起こされる問題を「二次障害」と呼びます。
例えば、「職場で臨機応変な対応を求められる場面が多く、強いプレッシャーから適応障害を発症した」といったケースです。また、対人関係のトラブルが続いた結果、不安障害やうつ状態に陥る方も少なくありません。
こうした二次障害を防ぐには、自分の特性を理解し、ストレスを軽減するための工夫が求められます。また、困ったときには適切な支援機関に相談し、早めに対策を講じることが大切です。
ASDの方の仕事に関する相談先
発達障害でお悩みの方が、仕事に関する相談をしたい場合に利用できる相談先について紹介します。
- 発達障害者支援センター
- 障害者就業・生活支援センター
- ハローワーク
- 就労移行支援
- 自立訓練(生活訓練)
詳しくは次の通りです。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害者やその家族の日常生活のサポートなど総合的な支援を目的とした専門機関です。都道府県・指定都市が実施主体となり、自治体自ら、あるいは、都道府県知事などが指定する社会福祉法人などが運営しています。
発達障害者支援センターでは、発達障害者の日常生活や仕事、人間関係など、幅広い相談をすることが可能です。例えば、仕事・就労に関する相談をすると、ハローワークや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどと連携して情報提供などのサポートをしてもらえます。
各地域の発達障害者支援センターは下記のサイトなどで確認できます。
障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害者が自立して働いていけるように、就労支援と生活支援の双方を行う支援センターのことです。運営主体は、都道府県知事が指定する社会福祉法人、特定非営利活動法人、民法法人などで、全国に設置されています。
就労支援としては、就労前には、障害の特性や能力に合った職務の選定や、就職活動の支援が受けられます。また、職業実習のあっせんや職業準備訓練といった就職に向けた準備支援を受けることも可能です。就労後も職場定着に向けた支援が受けられます。
各地域の障害者就業・生活支援センターは、下記サイトの「障害者就業・生活支援センター一覧」で確認できます。
ハローワーク
ハローワークとは、全国に設置されている公的な職業紹介所です。就労相談や職業紹介を受けることができます。
発達障害の場合は、障害者専門窓口の利用が可能です。障害者専門窓口を利用することにより、障害に理解のある専門のスタッフによるサポートが受けられます。
仕事をしたいが不安がある、どういった仕事が向いているか分からないといった相談も可能です。ハローワークが連携する支援機関で、実際に働く前に実習を受けるといったこともできます。
障害者支援に特化したサポートが受けられるため、一般の窓口を利用するよりも手厚い支援が受けられます。
ハローワークについて詳しく知りたい方は「ハローワークの障害者専用窓口とは?相談できる内容や利用の流れを解説 」の記事も参考にしてください。
就労移行支援
就労移行支援サービスとは、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの一つで、一般企業などへの就労を希望する障害者に対して、就労支援を行うものです。具体的には、障害者に通所してもらうことで、作業実習や訓練の場を提供したり、職場探しや就職後の定着支援をしたりします。
一人ひとりの特性や状況に合わせて支援が行われるため、「合理的配慮が受けられる職場に転職したい」「まずは自分の特性を深く理解するところから始めたい」など、自分のペースで就職活動を進められます。
ASDの特性によって就労に不安を感じている方は、就労移行支援のサービスを活用してみましょう。
自立訓練(生活訓練)
自立訓練(生活訓練)は、就職を目指して利用する就労移行支援とは異なり、自立した生活を送るために利用するものです。就労の前に、まずは親や周囲に手助けを得ずに自立した生活を送りたいといった場合に利用できます。
支援内容は、生活リズムの安定や金銭管理、食事の準備、掃除や洗濯など、日常生活スキルの向上をサポートするものが中心です。また、対人関係のトレーニングや公共交通機関を使った移動練習など、社会生活に必要なスキルも学べます。
それぞれの課題や目標に応じたプログラムを受けられるため、自分のペースで無理なく自立に向けた準備を進めたい方におすすめです。
適切に支援を活用しよう
ASDの特性は、人によって内容や程度に大きな違いがあります。比較的症状が軽い場合、「軽度のASD」と呼ばれることもありますが、これは医学的に定義された言葉ではありません。特性を他人と比較するのではなく、自分自身が負担やストレスを感じているのであれば、適切な支援機関のサポートを受けましょう。ストレスが積み重なると、適応障害などの二次障害を引き起こす可能性があります。
本記事で紹介したとおり、ASDの方が仕事について相談できる機関は多いため、ぜひ活用してみてください。
就労移行支援や自立訓練(生活訓練)の利用を検討中の方は、ぜひKaienにご相談ください。
Kaienでは、発達障害の強みを活かした就労移行支援・自立訓練(生活訓練)を提供しています。発達障害に理解のある企業200社以上と連携し、独自の求人紹介も可能です。
ご相談やご見学は、オンラインでも開催していますので、お気軽にお問い合わせください。
*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。
*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます