感想が思いつかないのは大人の発達障害?関連性や対策について解説

2025.1.23

感想が思いつかない・伝えられないという悩みを抱える人は少なくありません。特に、「集中力が続かない」「情報を整理できない」「特定の興味分野以外に関心を持てない」といったケースでは、大人の発達障害*¹が関係している可能性があります。

この記事では、「感想が思いつかない」という悩みと発達障害との関連性を解説したうえで、具体的な対策をご紹介します。大人の発達障害について相談できる施設やサービスも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

感想が思いつかないのは大人の発達障害が関係している?

「感想が思いつかない」と感じる場合、その背景に「自分の意見や気持ちを言葉にするのが難しい」「情報を整理して言葉にするのが苦手」といった悩みが隠れていることがあります。これは、発達障害の特性が関係しているのかもしれません。

発達障害は脳の発達に関する障害で、大きく次の3種類があります。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如多動症(ADHD)
  • 学習障害*²(LD)

発達障害は先天的なもので、大人になってから発症することはありません。しかし、子どもの頃には特性が「個性」として捉えられたり、周囲からのサポートを受けたりして、発達障害に気づかないまま大人になるケースもあります。

その後、社会に出て人間関係が複雑化するなど、新しい環境で困難を感じることで初めて特性が強く現れ、「大人の発達障害」として診断される人も少なくありません。

発達障害の人が感想が思いつかない・感想を伝えられない理由

発達障害の人が「感想が思いつかない・伝えられない」と感じる背景には、特性が影響している場合があります。ここでは、発達障害の主な特性に基づいて、感想が思いつかない・伝えられない理由を詳しく解説します。

興味が偏っている

ASDの人には、特定の分野に強い関心を持ち、興味が偏りやすいという特性があります。そのため、興味のない分野やテーマに対して感想を求められても、「何を言えばいいかわからない」と感じることも少なくありません。興味のあるテーマに対する意見は豊富でも、幅広い感想や意見を求められる場面では困難を感じる人が多いでしょう。

空気を読むのが苦手

「空気を読むのが苦手」というのも、発達障害の特性のひとつです。この特性により、感想を述べる場面で「どのような意見が期待されているのか」を把握するのが難しく、言葉に詰まってしまうことがあります。

また、「無難な意見を言う」という考え方が難しい場合もあり、その場の雰囲気に合った感想を述べるのに苦労する人もいるでしょう。これが強いストレスとなり、結果的に感想を伝えられなくなってしまうケースもあります。

集中力が続かない

ADHDの人は、「集中力が続かない」という特性があります。文章や映像を理解している途中で気が散りやすく、内容を最後まで理解できないことも少なくありません。その結果、断片的な情報しか覚えておらず、感想が出てこなくなってしまうのです。特に、複雑な内容の理解や長時間の集中を求められる場面では、このような状態に陥りやすくなります。

感想が思いつかない・伝えられない場合の対策

発達障害の特性による「感想が思いつかない・伝えられない」という悩みには、いくつかの対策があります。ここでは3つの対策を紹介するので、ぜひ試してみてくださいね。

合理的配慮を求める

合理的配慮とは、障害のある人が不利にならないように周囲が環境を調整することです。感想が思いつかない・伝えられない場合、まずは無理をせず、合理的配慮を求めましょう。

例えば、「口頭ではなく文書で感想を伝えることを許可してもらう」「事前に質問内容を教えてもらう」「感想を考える時間を長めにもらう」など、自分にとって負担が少ない方法を提案してみてください。このような合理的配慮を受けながら、自分のペースで感想を述べる練習を続けていくと、徐々に苦手意識を軽減できる可能性があります。

SST(ソーシャルスキルトレーニング)を受ける

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは、社会生活で必要なコミュニケーション力や生活スキルなどを訓練するためのプログラムです。SSTでは「相手の気持ちを考えて受け答えをする」といった対人スキルを身につけられるため、感想や意見を適切に伝える方法も学べます。

大人の発達障害の場合、就労支援などのサービスでSSTが受けられます。就労支援ではそれぞれの特性に合わせた指導が行われるため、自分に合ったペースでスキルを磨けるのがメリットです。感想が思いつかない・伝えられないことに悩んでいる人は、こうした支援サービスの活用も検討してみてください。

カウンセリングを受ける

発達障害の特性による悩みを和らげるには、専門機関でのカウンセリングも効果的な手段です。カウンセリングを通じて自己理解を深め、自分の特性や苦手なポイントを把握することで、困りごとへの対処法を身につけられます。

また、カウンセリングの一環としてSSTを取り入れているケースも多く、感想を伝えるスキルを実践的に鍛えることが可能です。

カウンセリングを受ける際は、発達障害への理解が深い専門家を選びましょう。医療機関のホームページや口コミを参考に、大人の発達障害に対応できる医師やカウンセラーが在籍する施設を選ぶと安心です。

大人の発達障害の相談先

大人の発達障害に悩んでいる人は、公的機関のサポートを受けることも検討してみましょう。ここでは、大人の発達障害について相談できる施設やサービスを紹介するので、ぜひチェックしてみてください。

発達障害支援センター

発達障害支援センターは、発達障害のある人やその家族を支援するための機関です。発達障害に関する悩みや困りごとに関する相談ができ、生活の中での具体的な対応策や利用できる支援制度などについて、助言や指導を受けられます。

また、自治体や医療機関との橋渡し役も担っており、必要に応じて適切な機関の紹介が受けられるのもメリットです。

ハローワーク

ハローワークは、仕事探しをサポートする相談窓口です。障害者向けの専門窓口が設置されており、発達障害の特性を考慮した就職先の紹介や職業訓練の案内も行っています。

また、必要に応じて就職後の職場定着を支援するサポートが受けられるのも特徴です。発達障害への理解がある求人情報を提供してもらえるため、働くことに不安を抱える人にとって心強い支援機関です。

障害者就業・生活支援センター

障害者就業・生活支援センターは、発達障害を含む障害のある人の就業や日常生活をサポートする機関です。利用者には就業支援担当と生活支援担当がそれぞれ付き、仕事や日常生活での悩みについて幅広く相談できます。

地域で自立した生活を送るための支援を一体的に受けられるため、就労だけでなく日常生活に関するサポートも受けたい人におすすめです。

地域障害者職業センター

地域障害者職業センターは、障害者雇用促進法に基づいて設置された専門機関です。職業評価や職業準備支援など、障害のある人の就労の準備から定着まで一貫した支援を提供しています。

職場へのジョブコーチの派遣も実施していて、障害者と事業者の間に立って直接的な援助をしているのも特徴です。合理的配慮が受けられるよう、ジョブコーチが職場に対して適切な働きかけをしてくれます。

就労移行支援

就労移行支援は、障害のある方が一般企業への就職を目指すための福祉サービスです。働くために必要なスキルやマナーを身につけるためのトレーニングを提供しており、企業への就職活動もサポートします。

就労移行支援事業所では、それぞれの特性や状況に合わせた個別支援計画を作成し、自分のペースで働く準備を進められるのがメリットです。具体的には、コミュニケーション能力の向上や希望する職種に必要なスキルの習得、合理的配慮の内容についての相談など、働くうえで必要なサポートが受けられます。また、スタッフが利用者の課題に寄り添い、職場での実習や就職後の定着支援も行います。

自立訓練(生活訓練)

自立訓練(生活訓練)は、障害のある方が自立した生活を送れるように、食事や生活リズムなど日常生活を営むために必要なスキルの習得を目指す福祉サービスです。

生活リズムや生活習慣を改善したい人だけでなく、「自分の障害特性を見つめたい」「コミュニケーションをうまくとりたい」といった希望を持つ人にもおすすめです。

専門的なスタッフの支援のもと、自身の特性や適切なコミュニケーションの方法を知ることで、感想が思いつかない・感想を伝えられないといった悩みの解決にもつながっていくでしょう。

特性にあわせた対策が重要

「集中力が続かず、感想を考えるのに必要な情報をまとめられない」「特定の分野にしか興味を持てず、それ以外については感想が思い浮かばない」といったケースでは、発達障害が原因となっている可能性があります。

感想が思い浮かばない・伝えられないという悩みを抱えている人は、まず自分の特性を理解することから始めましょう。特性に合わせた対策を行うことで、悩みや困りごとの解消につながります。

大人の発達障害に関する相談先は複数あるため、一人で抱え込まずに専門機関に相談してみましょう。特に就職に関する悩みがある場合は、就労移行支援の活用がおすすめです。

Kaienでは、発達障害の強みを活かした就労移行支援や自立訓練(生活訓練)を実施しています。見学・個別相談会やオンライン個別相談を実施しているので、まずはお気軽にご相談ください。

*1発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

*2学習障害は現在、DSM-5では限局性学習症/Specific Learning Disability、ICD-11では発達性学習症/Developmental Learning Disorderと言われます。

監修者コメント

 皆さんは「読書感想文」を覚えていることでしょう。ええ、夏休みなどに本を教師から指定されるか、自分で本を見つけてきて、それを読んだ感想を書かされる宿題のことです。夏休みが終わるころになって、泣きそうな気持ちになりながら、一字も進まない原稿用紙とにらめっこしたことを筆者は苦々しく思い出します。そして、学校で表彰された人の感想文を読んで、これはきっと親が代わりに書いたに違いないと勝手な断定をしたこともありました。

 読書感想文には全国コンクールがあって、2024年の時点では第70回となっていました*1)。読書感想文の歴史は、甲子園ほど長くないですが、第二次世界大戦後に始まったものと理解してよさそうです。戦前の体制が崩れ去り、アメリカ的な個人主義を大切にする教育の一環として、自分の意見を表明できるような子どもを育てるため、読者感想文なるものを発明したと考えるのは筆者の妄想でしょうか?

 そう、読書「感想」文は、単なる感想ではなく、本を読んだことによって自分はどんな知識を得たか、それは過去に習った知識とどういう関係があるか、そしてその関係を理解した上で自分はどんな意見を持つか(肯定・否定・提案など)といった展開が求められるのです。そうすると、「感想文」とは大学入試の小論文(フランス語ではEssay)や大学の講義で提出するレポートと同じ構造を持つ必要があります。

 そして、本コラムで書かれている「感想が思いつかない」と言うのは、単に面白いとかつまらないとかではなく、仕事をこなすうえで必要な知的スキルの行為が何らかの理由によって遂行出来ない、と理解すべきなのでしょう。ふう、理解するまでかなりの分量を要してしまいました。

 長くなったので結論だけ申し上げますと、仕事を行う上で自分の意見を展開するために必要な論理展開ができないことと、発達障害であることの相関はないと思います。意見の展開にはコツがあり、上手にできるようになるにはトレーニングが必要であって、これは発達障害を持つ方でも一定以上の知的能力があれば可能になります。(ただし、日本では小論文の書き方を形式的にトレーニングする教育環境に乏しいため、その意味では発達障害があろうとなかろうと、「感想が思いつかない大人」が大勢いると言えます。)

 上記を踏まえて、自身の意見陳述のトレーニングを受けた後で何年経っても主張の展開に変化がないようであれば、もしかすると発達障害の可能性があるかもしれません。特に自閉症スペクトラム症で些末な事項にこだわってしまう、木を見て森を見ずのような全体を見通せない議論になってしまう、などの現象が見られることがありますが、これはかなり高度な知的レベルの職業に就いている発達障害の方の問題であって、全ての職業で見られるとまで言えないでしょう。

 最後になりますが、このようなコラム(感想を言えない労働者の問題)が出て来たことと、発達障害の方が増えていると言う事実は、私たちの仕事がサービス業にどんどん傾いていること、実物を扱うことが減って抽象的な概念を他者と共有しなければ仕事にならないことと密接な関連があるからだと思います。この「抽象」や「概念」も厳密に考えると非常にやっかいなものでして、これについてはまた別の機会に皆さんと考えたいと思います。

監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


この記事を読んだあなたにおすすめの
Kaienのサービス