発達障害*の方は、先天的に脳の機能にかたよりがあるために、周囲との関わり方や行動パターンなどに独特の特性が見られ、社会生活に支障をきたすことがあります。中には発達障害の診断がつかないまま成人し、社会に出た時に人間関係や仕事で生きづらさを感じ、自身の特性に気付く大人の発達障害に悩む方も少なくありません。
大人の発達障害の方は、強い刺激やストレスを受けると、パニック状態になってしまうことがあります。今回は、大人の発達障害の方がパニックになる原因や対処法、予防方法などを解説します。
大人の発達障害でパニックは起こる?
発達障害には「ASD(自閉スペクトラム症)」と「ADHD(注意欠如多動症)」、「SLD(限局性学習症)」など、いくつかの種類があります。ASDやADHDの方は、特性によりパニックが起こることがあり、パニック時にはさまざまな行動が見られます。なお、これはパニック発作とは異なるものです。
ASDの方の場合、予期せぬ事態が起こったり自分の考えを否定されたりするなど、大きな精神的ストレスを受けた時にパニックが起こる傾向にあります。一方ADHDの方の場合は、脳内多動によりさまざまな考えが次々と浮かび、脳内のキャパシティを超えて処理しきれなくなった時にパニックが起こりやすいといわれています。
大人の発達障害とASD・ADHDの特性については、以下の記事で詳しく紹介していますので、併せてご覧ください。
大人の発達障害(神経発達症)とは?種類と症状、診断方法や相談先を解説
パニック時に見られる行動の種類
ここでいうパニックとは、自分で自分の感情がコントロールできなくなる状態を指します。大人の発達障害におけるパニックには、主に行動に出る「動のパニック」と、思考がストップしてしまう「静のパニック」の2種類があり、どちらがあらわれるかは人によって異なります。
「動のパニック」の例として、泣く、暴力をふるう、暴言を吐くといった行動が挙げられます。一方「静のパニック」は、話しかけても返答がない、触れても反応がないなど、表面上の変化は少ないのが特徴です。中には、パニック時の記憶がないというケースも珍しくありません。
以下で、発達障害の方に見られるパニック時の行動パターンを見ていきましょう。
体が硬直してフリーズする
静のパニックとして、体が硬直してフリーズするケースがあります。
周囲から話しかけられたり触られたりしても反応がなく、一見ボーッとしているようにも見えますが、れっきとしたパニック行動の1つです。
注意や叱責をされた際にフリーズすることが多く、ショックから身を守るために思考をシャットアウトしてしまう、その場における適切な行動がわからず黙ってしまうなどが原因として考えられます。あるいは、反発したい気持ちを抑えた結果、黙り込んでしまう場合もあるでしょう。
また過剰適応により、相手が望む返答をしようと気を遣いすぎることで何を言ったらよいかわからなくなり、フリーズした状態に見えてしまうケースもあります。
興奮や怒りが爆発する
ASDやADHDの方は、刺激やストレスに敏感に反応する特性があります。
たとえば、急激な環境の変化や予測できない事態に遭遇したり、他者とのやりとりで強い刺激にさらされたりすると、脳内のキャパシティをオーバーしてしまい、感情のコントロールが難しくなります。
特にADHDの方は、衝動性が強いという特性があるため、瞬間的に感じた強い怒りや興奮を抑えられず爆発してしまうケースも少なくありません。
泣く
大人の発達障害の方がパニックで泣いてしまう場合、興奮や怒りといったパニック行動と同様、強い刺激や不安、ストレスなどが引き金になります。しくしく泣く、大声で泣くなど、泣き方も人によってさまざまです。
一概には言えませんが、パニックに対する反応には性差が見られ、怒りや興奮といった状態は男性が、泣く反応は女性に出やすいといわれています。ただし、これはあくまでも一説である点に留意しましょう。
暴言や暴力をふるう
暴言や暴力といったパニック行動も、しばしば見られます。発達障害の方は自分の気持ちを適切な言葉で表現するのが苦手な傾向があるため、フラストレーションが溜まり暴力や暴言で発散してしまう場合もあるでしょう。
ほかにも、特性による周囲とのコミュニケーションの困難さなどで幼い頃からストレスにさらされていると、「攻撃しないと自分の心を守れない」と思い、防衛反応として暴言や暴力、物を投げるといった破壊行動などが出てしまうケースも考えられます。
自傷行為をする
発達障害の方がパニック時に自傷行為をする場合、強い刺激やストレスから逃避するためや、自分の心を安定させるためといった理由が考えられます。また、要求の伝え方がわからず、相手の気を引く方法として自傷行為をするケースもあるでしょう。
いずれも、過去に同様の行為によって不快な状況が改善されたという経験が背景にあります。いわゆる誤学習と呼ばれるもので、そうした経験から自傷行為が習慣化してしまう場合もあります。
大人の発達障害の方がパニックになる原因
大人の発達障害の方がパニックになる原因として、先述のように強いストレスや刺激、不安にさらされることなどが挙げられます。ただし、ASDとADHDではそれぞれの特性によりパニックになる原因が異なる点に注意が必要です。
ASDとADHDでどのように異なるか、特性の違いも含めてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
ASD(自閉スペクトラム症)の方の場合
ASDの方がパニックになる原因として、ストレスや不安が抑えられない状態の積み重ねが考えられます。以下に具体例をまとめました。
- 突然の予定変更が起こった
- 曖昧な表現が理解できない
- こだわりやマイルールの維持が難しくなった
- 過去の嫌なできごとがフラッシュバックした
- 不快な感覚を対処しきれなくなった
ASDの方には曖昧な表現の理解や、予想外の出来事への対処が苦手といった特性があります。また、こだわりの強さや視覚や聴覚、触覚といった感覚の過敏さも特徴です。こうした特性が周囲に理解されなかったり、困難な出来事が連続で起こったりするとストレスが蓄積され、パニックを引き起こす原因となります。
ADHD(注意欠如多動症)の方の場合
ADHDの特性の1つに、「脳内多動」が挙げられます。
たとえば見た感じは落ち着いて見えていても、ADHDの方の脳内は次々とさまざまな考えが浮かんだり思考がめまぐるしく変化したりと、脳内多動状態になっている場合があります。そして何か嫌なことやストレスを感じる出来事があると、不安や負の感情がめまぐるしく発生して雪だるま式に膨れ上がることで、思考や行動がコントロールできなくなってしまい、パニックを起こしてしまうのです。
先ほど触れたように、パニック状態が衝動性と結びつくと、突然怒りを爆発させたり、暴言や暴力をふるってしまったりする場合があります。
大人の発達障害のパニックに対する予防策
大人の発達障害の方がパニックを起こさないようにするには、予防策を知っておくことが大切です。パニックに対する予防策として、以下が挙げられます。
- 自己理解を深める
- リラックス方法を身につける
- 規則正しい生活を送る
- イヤーマフなどを活用する
- 周囲に理解を求める
それぞれ詳しく見ていきましょう。
自己理解を深める
もっとも大切なのは、どんな状況がパニックを引き起こすのか、その原因を知ることです。原因がわかれば、その原因を取り除いたり、パニックが起こる状況を避ける生活を意識したりして予防できます。
原因や自分の苦手なことを把握する上でポイントとなるのは、パニックが起こる前の言動です。たとえば仕事場で曖昧な指示を受け、どうして良いかわからずパニックになったとしましょう。この場合、指示内容が理解できなかったことがパニックの原因だと考えられます。そのため、指示を受ける際は曖昧な伝え方でなく、具体的な内容や納期を明言してもらうよう相手に頼むという予防策が立てられます。
自分がどんな時に不安やストレスを感じるか、その原因をなるべく具体的に把握し、自己理解を深めることが大切です。
リラックス方法を身につける
生活していると、多かれ少なかれストレスが溜まっていくものです。特に発達障害の方の場合、感覚の過敏さや特性による心身の負担も相まって、日常生活の中でもストレスが溜まりやすくなります。
ストレスの蓄積はパニックの引き金となるため、リラックス方法を身につけ、意識的にストレスを解消することが重要です。音楽を聴く、好きな香りを嗅ぐ、ゆっくりとお風呂に浸かるなど、自分にとってのストレスケアを日常に取り入れましょう。
規則正しい生活を送る
疲労が溜まっていたり、睡眠不足になったりすると、心身の状態が不安定になりパニックが起こりやすくなります。
規則正しい生活を意識すると自律神経のバランスが整い、ストレス耐性が上がるといわれています。またASDの方の場合、生活リズムが一定となりルーティン化することが、安心にもつながるケースも少なくありません。毎日の習慣が決まっていると、予想外の出来事に遭遇するリスクも減らせ、同時に脳への負担も軽減できます。
イヤーマフなどを活用する
感覚過敏のある方は音や光などの刺激に敏感な傾向があり、周囲の雑音がストレスになることも多いです。また突発的な音に刺激され、パニックにつながる可能性もあります。この場合、苦手なものを遮断できるアイテムを活用するのがおすすめです。たとえばイヤーマフをつければ雑音をシャットアウトでき、刺激を抑えることで落ち着ける環境を確保できます。
また、「アイテムを身につける=安心できる環境」という感覚が身につけば、強い刺激やストレスにさらされた時のパニックを抑えるツールとしても役立ちます。
周囲に理解を求める
パニックの原因となるものを避ける上で、周囲に理解を求め協力してもらう方法も有効です。たとえば、先の見通しが立たない状況や突発的な出来事がパニックの引き金となる場合、仕事場で1日のスケジュールを朝のうちに伝えてもらう、ルーティン化された仕事を回してもらうといった協力をお願いしても良いでしょう。
また、発達障害の特性上パニックを起こしてしまうと伝えておくことで、万が一パニックに陥ったときも周囲の人が必要以上に驚かずに済みます。
パニックになったときに周囲ができる対応として、本人や周囲の人々の安全の確保があります。また、下手に声をかけたり叱ったりするのではなく、パニックが収まるまでは見守りをお願いしましょう。
パニックになった場合の対処法
予防していても、予想外の出来事でパニックが起こってしまうこともあります。パニックになった場合の対処法として、主に以下が挙げられます。
- 外からの刺激を減らす
- クールダウンできる方法を試す
- 自分の気をそらす
- 思考を整理する
- 支援機関を頼る
1つずつ詳しく見ていきましょう。
外からの刺激を減らす
前述の通り、発達障害の方は強い光や大きな音、人混みなどの刺激がパニックを引き起こす原因となる場合があります。パニックになった際は、イヤーマフやサングラスをつけたり、人のいない静かな場所に移動したりするなど、苦手な刺激から身を守ることが大切です。
苦手な刺激を受けそうな場所を事前に把握し、対処法を考えておくと、パニックになるリスクを減らせるでしょう。
クールダウンできる方法を探す
パニック時は感情が高ぶっているため、リラックスできる動作を行いクールダウンを意識すると良いでしょう。
クールダウンの方法には、深呼吸や好きな香りを嗅ぐ、冷たい飲み物で体を冷やすといったものがあります。特に、息を4秒間吸って4秒間吐き出す呼吸法は即効性があるといわれています。
日常的にいろいろな方法を試して、自分に合ったものを見つけておきましょう。
自分の気をそらす
パニックになっている時は、意識が不安やストレス要因に向いてしまっています。その意識の対象を別のものに向け、自分の気をそらすことも対処法の1つです。
たとえば、パニックで腕をつねりそうになったら輪ゴムを手首ではじく、ストレスボールを握る、特定の言葉を繰り返すなどが挙げられます。パニック時に何をすると気がそれて心が落ち着くか、普段から把握しておくと、いざという時にスムーズに実践できるでしょう。
思考を整理する
ADHDの方は、脳内多動でさまざまな思考が入り乱れることがパニックの原因となります。そのため、脳内にある考えや感情、不安を1つずつ取り出し、整理することで混乱を落ち着けられます。
「何が起こっているのか」「自分がどう感じているのか」といった事実と思考を言葉や文字にすると、焦りや不安といったパニック要因を客観視しやすくなるでしょう。また、過去の対処法の成功例をメモしておくと、いざという時にパニックを脱する手助けとなります。
支援機関を頼る
パニックを繰り返してしまい自分だけでは対処が難しい場合や、仕事などの社会生活に支障が出ている場合は、支援機関を頼るのも1つの手です。
発達障害者支援センターや精神保健福祉センターといった機関では、専門家による相談やアドバイスを受けることができます。仕事に関する悩みがある場合は、就労移行支援事業所で就労に関する相談やサポートを受けることが可能です。1人で抱え込むのではなく、信頼できる支援機関に頼りましょう。
Kaienの発達障害の方への支援
Kaienでは、就労移行支援や自立訓練(生活訓練)などを通じて、発達障害の方への支援を行っています。感情コントロールの方法や生活リズムの整え方など、特性や悩みに応じたさまざまなカリキュラムがあるのが特徴です。ここではKaienの就労移行支援と自立訓練(生活訓練)の支援内容について、それぞれ紹介します。
Kaienの就労移行支援
Kaienの就労移行支援では、職業訓練から就活支援、就職後の定着支援まで、一般就労に向けたさまざまなサポートを行っています。
プログラムは多岐にわたり、基本的なビジネススキルを学べる講座や、コミュニケーション、体調管理の方法、発達障害の特性の理解が深まる講座など多種多様です。怒りと不安に対する感情コントロールの仕方やストレスの対処法を学べる講座もあるので、パニックを防ぐ自分なりの方法を身につけることができます。
Kaienでは無料で見学会や体験利用を随時実施しているので、気になる方はぜひお気軽にご連絡ください。
Kaienの自立訓練(生活訓練)
Kaienの自立訓練(生活訓練)は、講座と実践プロジェクト、カウンセリングの3つのカリキュラムで、発達障害の方の自立をサポートします。
食事や睡眠、金銭管理といった生活の基本を学べる講座や、ストレスや不安、抑うつといった感情の緩和方法を学ぶ講座など、多岐にわたります。感情コントロールのプロジェクトでは、自分に合ったストレスや刺激への対処法を毎日実践し、ルーティン化することで、パニックの予防策やパニック時の対処方法を身につけられます。いずれもスタッフが一緒に行うので安心です。
自立訓練(生活訓練)も就労移行支援と同様に、随時無料の見学会や体験利用を実施しています。ぜひお気軽にご連絡ください。
発達障害の特性によるパニックは自己理解が大切
発達障害の方は、その特性により強い刺激やストレス、不安にさらされるとパニックになってしまうことがあります。パニックに対処するには、どんな出来事がパニックを引き起こす原因となるかを理解し、適切に対処することが大切です。原因がわかれば、予防策も立てやすいでしょう。
自分だけでは対処が難しい場合は、1人で悩まず就労移行支援事業所などの支援機関を頼るのがおすすめです。自己理解を深め、自分に合った対処法を身につけることで、パニックとうまく付き合っていきましょう。
*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます