DSM-5とは?内容や分類、ICDとの違いを解説

2019.6.9

「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)」は、医師が精神障害の診断を行う際に、指針となるマニュアルです。発達障害の診断基準としても、DSM-5が参考にされています。

本記事は、発達障害*の診断基準について調べていてDSM-5という言葉が気になった方に向けて、DSM-5の概要や目的、内容、ICDとの違い、診断を行う医師や医療機関などを解説します。

どのような基準で診断されるか知っておくと、医師に対する信頼感を持ちやすくなるでしょう。

発達障害の診断基準としても活用されるDSM-5とは?

発達障害は、医療機関の医師が診断を行います。診断の際、医師は独自の判断ではなく、世界的に統一された基準を参考にしています。

この基準が、「DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)」です。DSMは「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の頭文字を取って付けられています。

DSMはアメリカ精神医学会が2013年に発行した精神疾患の診断基準のマニュアルで、日本を含む多くの国で診断の指針として使われています。

2022年には、DSM-5を改訂した最新版の「DSM-5-TR」が発表されました。最新の研究に基づき、病名の変更や新たな疾患の追加などが行われています。しかし、現在もDSM-5は引き続き参考にされています。

DSM-5の目的と役割

DSM-5は、精神疾患の診断基準を統一する目的で作られたマニュアルです。医師が共通の基準をもとに診断できるようにすることで、診断のばらつきを減らし、適切な治療につなげる役割を持っています。

精神疾患の診断は、血液検査や画像検査のような客観的な検査だけでは判断が困難です。そのため、DSM-5の発行以前は、医師ごとの経験や直感に頼る部分が大きく、診断のばらつきが生じていました。

DSM-5の導入によって、精神疾患の診断基準が統一され、どの医師も信頼性の高い基準に従って診断を行い、適切な治療を行いやすくなりました。

なお、DSM-5はあくまで医師向けの手引きですので、一般の方の自己診断(セルフチェック)には利用できません。

DSM-5の内容と分類例

DSM-5は、精神疾患を22の大カテゴリに分類し、それぞれに小カテゴリと診断基準が設定されています。医師はこの基準を診断の参考にします。

発達障害は「神経発達症群」という大カテゴリに分類され、7つの小カテゴリに分類されています。

【神経発達症群】

小カテゴリ診断基準
知的能力障害群(知的障害)知的機能や適応能力に困難がある状態
コミュニケーション症群言語の発達や理解に問題がある状態
自閉スペクトラム症(ASD)対人関係の困難やこだわりの強さがみられる
注意欠如・多動症(ADHD)不注意・多動・衝動性がみられる
限局性学習症(SLD)読み書きや計算が苦手で学習に困難がある
運動症群発達性協調運動症(DCD)、チック症など→さらに詳細な分類と診断基準へ
ほかの神経発達症群上記に分類されない発達特性がある場合

診断基準は実際の記述と異なる概要ですので、参考程度にしてください。カテゴリによってはさらに詳細な分類があり、各診断基準が書かれています。

DSM-5とICD-11の違い

DSM-5は現在日本の多くの精神科医が参照する診断基準ですが、そのほかに「ICD-11」という診断分類があります。

DSM-5との違いは、ICD-11は精神障害以外の疾病も含めた分類水準であることや、ICD-11はWHOが定める国際的な分類の方法である、ということがあげられます。精神疾患については、分類方法や診断基準に大きな違いはなく、どちらの基準が優れているということはありません。

両者を比較したものが、以下の表です。

DSMICD
作成機関アメリカ精神医学会(APA)世界保健機関(WHO)
主な対象精神疾患のみすべての病気(精神疾患を含む)
用途医学的に使用(主に診断・治療の指針)医学的・行政的に使用(診断・統計・保険制度など)
版と発表年・DSM-5:2013年・DSM-5-TR:2022年(最新版)・ICD-10:1990年・ICD-11:2018年(最新版)

発達障害の診断はだれがどこでする?

発達障害の診断は医療機関で精神科医が行います。

ややわかりにくいかもしれませんが、発達障害に関する相談やサポートは医療機関以外の場所(例えば地域の発達障害者支援センターや福祉センターなど)でも受けることができます。

大学生の場合は、大学内の学生相談室でも対応できる場合が増えてきました。

一方で障害の診断ができるのは医師に限られます。

発達障害の診断がなくても(つまり障害の疑いがあるという状態でも)利用できるサポートは多くあります。
ただし、ご自身の状態に診断名をつけたい場合、あるいは障害者手帳の申請等のために診断が必要な場合等には診断のできる医療機関を訪れる必要があります。

目的機関・場所
診断医療機関(精神科医)
相談・サポート(診断がなくても利用可能)地域の発達障害者支援センター、福祉センター、大学内の学生相談室など

医療・相談機関を訪れる際のポイント

前述の通り、発達障害の診断では DSM-5 のような診断基準が参照されます。

診断のための診察で注意すべきポイントとして成育歴を尋ねられることがあります。

成育歴とは、私たちが生まれてから今日までどのような環境でどんな風に育ち、どんなエピソードがあるかをまとめたものです。

例えば、就学前検診でこんなことを言われたとか、小学生のころは授業に集中できずによく先生に注意されていたとか、ご家族の中に発達障害の診断を持つ方がいるとか、これまでのほかの精神疾患の診断を受けたことがあるとか、今仕事でどんなことに困っているかなど、ご自身の情報を過去にさかのぼって質問されます。

今のご本人の状態や困りごとが最近起こり始めたことなのか、幼少期から同様の特性を持っていたのかは、発達障害の診断をするうえで非常に重要です。

例えば下記のようなケースでは自閉スペクトラム症ではなく別の精神疾患(たとえばうつ病など)の診断が下る可能性があります。

別の精神疾患(たとえばうつ病など)の診断となる可能性があるケース

  • 接客業に転職をしてから急に周囲とコミュニケーションをとることが難しくなり、落ち込むことが増えた。
  • 上司からは、もっと社内の暗黙のルールを守れといわれるが、ほかの人がどんなルールに従って活動しているのかがわからない。
  • 最近では会社に行こうとすると頭痛がしてつらい。
  • 幼少期は友達も多く、転職前までの職場(事務職)ではコミュニケーションで困ったことはなかったのに…。
  • 最近テレビで発達障害の特集を見て、自分は自閉スペクトラム症の傾向があるのではないかと思い受診した。

発達障害の場合は幼少期から症状が認められる必要があります。
現在の状況だけを見ると自閉スペクトラム症の診断基準に当てはまる部分があるものの最近のエピソードだけでは自閉スペクトラム症の診断には至りません。

もちろん、自閉スペクトラム症の傾向が幼少期からあったものの本人や周囲ともに特にその特性に気がつかず、接客業についたことがきっかけで自閉スペクトラム症の特性がはっきりとわかるようになった、という可能性もあります。
また、ご本人に自覚がないだけで、じつは幼少期から自閉スペクトラム症の傾向があったという可能性もあります。
ですから、診断の際はこういった背景情報も考慮しながら診断基準を参照する必要があります。
一概に「本人の話が診断基準に当てはまっている」=「発達障害の診断をする」というわけにはいかないのです。
したがって、 DSM-5 の基準は一般に公開されているものの自分の障害を自己診断することはできません。
あくまでも熟達した医師が基準を参照し、本人からの情報や時に本人以外(家族等)からの情報、知能検査など客観的指標を総合的に考慮したうえで診断名がつくのです。

大人になってから診断を受ける場合も、できるだけ幼少期からのエピソードがお話できるとよいでしょう。
例えば事前にご家族にご自身の幼少期のお話を聞いておくのもよいですし、学生時代の通知表の所見に書かれた情報が役立つこともあります。
また、もし医療機関を訪れる前に知能検査や心理検査を受けたことがあればその結果も持参しましょう。客観的指標として診断の際の参考になります。

自己判断せず医療機関や専門機関に相談してみよう

DSM-5は、精神疾患の診断基準をまとめたマニュアルです。医師の経験や考え方によるばらつきが生じにくくなり、信頼性の高い診断と治療を受けられます。

発達障害の診断を受けると、さまざまな福祉サービスが利用可能です。

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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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