気持ちの切り替えが苦手なことと発達障害の関係性とは?切り替えやすくなるための工夫も紹介

公開: 2025.3.21更新: 2025.3.21

日常生活や仕事で「失敗を引きずってしまい、次の作業に集中できない」「突然の予定変更に対応できず、パニックになってしまう」といったお悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。発達障害がある場合、特性の影響もあって、気持ちを切り替えることが苦手な傾向があります。

本記事では、発達障害*と気持ちの切り替えの関係性や、気持ちを引きずることのデメリット、切り替えをスムーズにするための対策方法などを解説します。日常生活や仕事の場面で実践できる工夫やトレーニングも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

発達障害の方が気持ちの切り替えが苦手な理由

発達障害の特性によって、気持ちの切り替えがスムーズにできないケースがあります。ここでは、発達障害の人が気持ちの切り替えが苦手な理由について、具体的に説明します。

感情や行動のコントロールが苦手だから

ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の場合、感情や行動のコントロールが苦手な傾向にあります。ASDの場合、好きなことや眼の前のことに一度熱中すると、周りが見えなくなるほど集中してしまう「過集中」の状態になりがちです。

また、ADHDの場合、今やるべきことよりも自分がやりたいことを優先しやすい傾向があり、感情が高ぶってしまいます。いずれのパターンでも、一度その状態に陥ると抜け出すことが難しく、結果的に気持ちの切り替えに時間がかかりやすい傾向があります。

見通しを立てるのが苦手だから

ASDやADHDの人は、見通しを立てることが苦手な傾向が見られます。例えば、ASDの場合、物事を察したり推し量ったりすることが苦手で、眼の前の状況に執着しやすくなり、未来のことを具体的に考えることが難しい場合があります。

また、ADHDの人はドーパミンの機能不足により、脳が一時的に情報を保存、処理する「ワーキングメモリ」がうまく働かず、計画を立てることや優先順位をつけることを苦手とするケースも少なくありません。

こうした特性から、次の作業へ移る気持ちの準備が不十分で、気持ちの切り替えをうまくできない可能性があります。

完璧主義や白黒思考の傾向があるから

発達障害のある人は、極端な思考をしやすい傾向があります。「100%成功しなければ意味がない」「完璧でなければ価値がない」といった完璧主義の考え方や、物事を「白か黒」「0か100」で考える白黒思考の傾向が強く、小さな失敗を過大に捉えがちです。

そのため、少しでもミスがあると落ち込んでしまい、気持ちを切り替えられなくなってしまうのです。例えば、仕事のプレゼン資料に誤字が1箇所残っていただけで「全部ダメだ」と思い込み、プレゼンに自信を持てなくなるようなケースがあります。

こだわりが強いから

こだわりの強さも、気持ちの切り替えがスムーズにいかない原因となる場合があります。特にASDの人はこだわりが強く、中途半端を嫌う傾向があります。前述の完璧主義や白黒思考と相まって、作業を完了しないと次の作業に移れなくなり、気持ちがうまく切り替えられなくなることが考えられます。

また、ASDやADHDの人マルチタスクが苦手な傾向があり、1つのことに没頭しすぎて、周囲に意識を向けようとすると大きな疲労感を生み出してしまう場合もあります。こうした背景から、決まったルーティンや同一作業へのこだわりが強化され、結果的に気持ちの切り替えが難しくなっている可能性があります。

気持ちの切り替えができないことによるデメリット

気持ちをスムーズに切り替えられないと、日常生活や職場においてさまざまな影響を及ぼす可能性があります。ここでは、気持ちの切り替えがスムーズにできないことによる具体的なデメリットについて見ていきましょう。

急な予定変更やトラブルに対応できない

気持ちの切り替えがうまくできないと、突然の予定変更やトラブルに対応することが難しくなります。例えば、ASDがあって想像することが苦手な人などは、予想外の出来事に対する柔軟性が低く、突発的な状況でストレスを強く感じやすい傾向があります。

また、発達障害のある人は物事を順序立てて考えることが苦手な傾向があるため、予定が急に変わった際に混乱して適切な判断ができなくなる人います。結果的に、さらなるトラブルを引き起こしてしまう、という悪循環に陥る場合もあるでしょう。

ネガティブな感情を引きずってしまう

気持ちの切り替えがうまくできないと、不安や怒りといったネガティブな感情を長い間引きずってしまいがちです。発達障害の特性上、一度落ち込むと気持ちを立て直すのが難しくなることがあります。

「もうダメだ」「どうせ失敗する」といった思考が続いてしまうと、身動きが取れなくなって仕事や人間関係に悪影響を及ぼす可能性があります。また、何日間も同じことで落ち込んでいると、他の人のやる気を削いでしまい、職場の雰囲気を悪くしてしまう場合もあるでしょう。

オンとオフをうまく切り替えられず心身が休まらない

気持ちの切り替えができないと「仕事中なのにプライベートのことを考えてしまう」「帰宅した後も仕事のことが頭から離れない」といった状態に陥る可能性があります。夜ベッドに入ってからも、その日起きたことを考えてしまい、睡眠が十分に取れなくなるケースも少なくありません。

また、緊張状態が続いて脳や心が休まらないため、ストレスが蓄積することも考えられます。心身のストレスを放置していると、体調不良につながる場合もあるため注意が必要です。

気持ちの切り替えをしやすくなるための工夫やトレーニング

ここからは、気持ちの切り替えをスムーズに行うための工夫やトレーニングを紹介していきます。状況や体調に合わせてできるものから取り入れつつ、自分に合う対策方法を見つけてみましょう。

予定を把握し、見通しを立てる

気持ちの切り替えをスムーズにするために、事前に予定を把握するとともに、可能な範囲で見通しを立てておくことが重要です。特に、発達障害のある人は急な計画変更や突発的なトラブルへの柔軟な対応が苦手な傾向があります。

そのため、スケジュールを可視化することで安心感が増し、不安や混乱を軽減して冷静な行動を促すことが可能です。

予定を把握するために、以下のような方法が有用です。

  • 表やチェックリストなどでスケジュールを可視化する
  • 事前に本人へ予告しておく
  • アラームやリマインダー機能で予定の確認を習慣付ける
  • スケジュールに余裕を持たせる

予定を目に見える形にまとめておくことで、次にやるべきことが明確化され、優先順位がわからなくなったり、急に思い出して混乱したりすることを回避しやすくなります。また、「あと10分で出発します」などと予告することで心の準備ができ、スムーズな気持ちの切り替えにつながります。

スマホやパソコンのアラームやリマインダー機能を活用すれば、自動的に予定を通知でき、抜け漏れによるパニックを防げるでしょう。さらに、スケジュールに余裕を持たせることで、予期せぬ事態による影響を最小限に抑えられる可能性があります。

トラブルの予行演習をする

発達障害の特性などによって予期せぬトラブルや突発的な出来事が起こった際に、準備ができず、混乱してしまって適切な判断ができなくなることがあります。想定されるトラブルや予定変更に対して予行演習を行うことで、実際に状況が発生した際に冷静に対応できる可能性が高まります。

トラブルの予行演習には、いくつかの方法があります。例えば、職場や日常生活における具体的なシナリオを想定したロールプレイングは、実践的な訓練を通して、適切な対処方法を習得することが可能です。

マインドフルネスを実践する

マインドフルネスとは、過去の失敗や未来の不安にとらわれず「今、この瞬間」に意識を向けるトレーニングのことです。発達障害のある人は、過去の出来事を繰り返し考えたり、先のことを過剰に心配したりする傾向があると言われます。

マインドフルネスを取り入れ、呼吸や五感を意識することで頭の中の混乱を鎮め、気持ちをリセットしやすくなります。また、精神的な安定とストレス耐性アップ、集中力や判断力の向上、人間関係の改善にもつながります。

マインドフルネスの簡単な実践方法に、マインドフルネス瞑想があります。初心者でも簡単に取り組める基本のやり方は、以下の通りです。

  1. 椅子に浅く座り、背筋を伸ばして、手を膝の上に置く
  2. 目を閉じるか、半目でリラックスする
  3. 呼吸に意識を向け、ゆっくりと腹式呼吸をする
  4. 吸う息、吐く息の流れに集中する
  5. 5分〜10分ほど呼吸を続ける

最初は短時間から始めて、慣れてきたら時間を延ばすとスムーズです。瞑想を終えたら、自分の心身の変化を振り返り、どのような感覚が得られたかを確認しましょう。もし瞑想の途中で雑念が浮かんでも、無理に排除しようとせずに、再び呼吸に意識を戻すことが大切です。

マインドフルネス瞑想を習慣化することで、感情を制御する力が身につき、気持ちの切り替えがスムーズになります。短時間で手軽にできるため、仕事の合間やプライベートでストレスを感じたときに取り入れてみましょう。

アンガーマネジメントを学ぶ

アンガーマネジメントとは、怒りや不安などの感情をコントロールし、適切に対処する技術のことです。怒りの感情は一時的に強く感じやすいとされており、感情に振り回されずに冷静に対応する力を身につけることで、気持ちの切り替えがしやすくなります。

アンガーマネジメントの基本的な方法には、怒りを感じたら6秒待つ「6秒ルール」や、感情を書き出す方法などがあります。6秒ルールは、怒りが湧いた瞬間から6秒時間を置くことで冷静さを取り戻すための手法です。

また、「何に対して怒っているのか」「なぜそれが嫌だったのか」など、怒りを感じたときの感情や原因を紙に書き出すことで、客観的に気持ちを整理でき、自分の怒りのパターンを把握しやすくなります。

発達障害の悩みは一人で抱え込まず専門機関に相談してみよう

発達障害があると、見通しの立てづらさや完璧主義、こだわりの強さなどの特性が相まって、気持ちの切り替えが苦手な傾向が見られます。気持ちが切り替えられないと、急なトラブルにうまく対処できない、ネガティブな感情を引きずってしまうなどさまざまなデメリットが考えられます。

気持ちの切り替えをスムーズに行うためには、事前の準備と意識的なトレーニングが重要です。今回紹介したスケジュールの可視化やトラブルが起きた際の予行演習、マインドフルネスなどを参考に、自分に合った方法を取り入れてみましょう。

もし日常生活や仕事で困難を感じる場合は、専門機関の支援を受けることも1つの選択肢として有用です。

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*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

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