自立訓練(生活訓練)とは?対象者と利用期間、事業所の種類やカリキュラムを解説

公開: 2025.3.19更新: 2025.3.31

障害がある方が就職や一人暮らしを考えたとき、課題となるのが自立した生活を送るための基本的な生活力です。部屋の片づけやスケジュール管理、金銭管理などがうまくできずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

そんなときに頼りになるのが、福祉サービスの自立訓練(生活訓練)です。この記事では、自立訓練(生活訓練)の概要や対象者、利用期間、事業所の種類やカリキュラムまで分かりやすく解説します。

自立訓練(生活訓練)とは?

自立訓練(生活訓練)とは、障害がある方が自立した生活をするために必要な、さまざまな訓練を提供する福祉サービスです。

自立訓練は障害者総合支援法に基づき、生活訓練と機能訓練の2種類が提供されます。生活訓練では生活能力の維持や向上を目的とし、家事や金銭管理、障害理解、コミュニケーションなど日常生活を円滑に送るためのスキルを学びます。

生活訓練は、障害がある方が仕事や一人暮らしを始める前に自己理解を深めたり、社会に出るための基盤を作ったりするために利用されています。なお、自立訓練(生活訓練)は就職活動とは紐付けられておらず、あくまで自立生活のための訓練がメインである点に留意してください。

自立訓練(機能訓練)との違いはなに?

機能訓練とは障害のある方を対象とし、自立した生活を目指す点は生活訓練と同様です。しかし機能訓練はその方法として、日常生活を過ごすために必要な身体機能の維持や回復、向上をサポートします。

主な内容は、理学療法士や作業療法士などによるリハビリテーションや、生活に関する相談・助言などで、基本的な家事を行うための動作を練習したり、歩行訓練や寝返りの練習をしたりと身体的な訓練が中心です。

自立訓練(生活訓練)の利用前に知っておきたいこと

自立訓練(生活訓練)を実際に利用する際に気を付けたいのが、支援内容が自分に適しているかどうかです。ここでは利用前に知っておきたい基本情報として、利用対象者や利用期間、利用料金について解説します。

自立訓練(生活訓練)の対象者

自立訓練(生活訓練)を利用できるのは、障害がある方のうち、地域生活を営む上で生活能力の維持・向上のために訓練が必要な方と定められています。具体的には、以下のような方が当てはまります。

  • 入所施設や病院を退所・退院した方のうち、生活能力の訓練が必要な方
  • 特別支援学校を卒業した方や、通院によって症状が安定している方のうち生活能力の訓練が必要な方

たとえば、発達障害*やうつ病などの精神疾患がある方、特別支援学校を卒業したばかりで就職や自立に不安がある方などが当てはまります。

サービスの利用には医師の診断が必要ですが、障害者手帳を持っていなくても利用可能です。市区町村から交付される「障害福祉サービス受給者証」も必要になるため、詳しくはお住まいの自治体や支援機関に相談してみましょう。

自立訓練(生活訓練)の利用期間

自立訓練(生活訓練)を利用できるのは原則2年間です。ただし、長期間入院・入所していた方の場合は状況に応じて最長1年間の延長が認められます。

また、途中で就職が決まった場合や、就労移行支援のような他の福祉サービスへ移行する場合には、計画に応じて早めに終了することも可能です。

自立訓練(生活訓練)の利用料金

自立訓練(生活訓練)は、障害者総合支援法に基づいた公的な福祉サービスなので、多くの方が自己負担なし、または低額の負担で利用できます。

利用料金は世帯収入に応じて以下のように設定されています。

世帯(本人+配偶者)の収入状況月額負担上限収入の目安
生活保護受給世帯
市町村民税非課税世帯
0円給与収入の場合概ね年収100万円以下
障害者は給与収入の場合概ね年収200万円以下
市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)9,300円年収が概ね600万円以下
上記以外3万7,200円年収が概ね600万円超

自立訓練(生活訓練)の種類

自立訓練(生活訓練)は、利用者の状況やニーズに合わせて 「通所型」「訪問型」「宿泊型」 のうち、いずれかを利用できます。ここではそれぞれの概要や、支援の特徴などを紹介します。

通所型の自立訓練(生活訓練)

通所型の自立訓練(生活訓練)は、事業所に定期的に通いながら訓練を受ける形式です。

個人で受けるプログラムのほかに、ほかの利用者と一緒に進める、グループワークやディスカッション、日常的な会話や相談なども行うので、生活スキルだけでなくコミュニケーション能力の向上も期待できます。

事業所により違いはありますが、訓練を受ける時間は基本的に朝から夕方までと決まっていることが多いので、生活リズムを整える練習にもなります。

訪問型の自立訓練(生活訓練)

訪問型の自立訓練(生活訓練)は、支援員が自宅を訪問して生活スキル向上をサポートします。事業所に通うのが難しい方でも受けられるのが大きな特徴で、自宅にいながら自分のペースで自立に向けた取り組みを進められます。

また、自宅という慣れ親しんだ空間で支援を受けられるので、食生活や身の回りの整理、金銭管理などについて、より実生活に即したサポートが期待できます。

宿泊型の自立訓練(生活訓練)

宿泊型の自立訓練(生活訓練)は、日中は仕事をしている方や他の障害福祉サービスなどを利用している方を対象に、宿泊用の施設で訓練を受けられます。宿泊を通して食事や掃除、洗濯などの生活スキルを磨いていきます。

一人暮らしを始める前の練習として利用するケースが多く、施設にはスタッフが常駐しているので、随時支援が受けられるのも特徴です。

自立訓練(生活訓練)の主なプログラム

自立訓練(生活訓練)では、基礎的な生活能力やメンタルケア、コミュニケーションなど、さまざまな能力を高めるためのプログラムがあります。ここではそれらの概要と、代表的なプログラムの例を紹介します。

生活能力を高めるプログラム

自立訓練(生活訓練)の基礎となるのが生活能力を高めるプログラムです。一人でも安定した日常生活が送れることを目指し、以下のようなスキルを習得していきます。

  • 食事や家事スキル:料理、掃除、洗濯など
  • 金銭管理:家計簿の付け方、無駄遣いを減らす方法など
  • 体調管理:健康維持のための生活習慣、服薬管理など

メンタル面のサポートプログラム

日常生活や仕事で受けるストレスへの対処法を学んだり、自分の特性への理解を深めたりするプログラムです。イレギュラーな出来事があったときや、失敗をしてしまったときでも、自分を客観的に見てメンタルのコントロールをすることを目指します。

主なプログラムには以下のようなものがあります。

  • 自己理解・障害理解:自分の特性を知り、対処法を学ぶ
  • ストレスコントロール:リラックス法や考え方の整理
  • リラクゼーショントレーニング:深呼吸、瞑想などのリラックス方法の習得
  • アンガーマネジメント:感情のコントロール方法を知る

コミュニケーションに関するプログラム

対人関係に活かせるスキルを学び、仕事や日常生活におけるコミュニケーションを円滑化するプログラムです。発達障害であるADHD(注意欠如多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の方は、他人とのコミュニケーションに悩みがあることも多いので、生きづらさを軽減させることにもつながります。

主なプログラムは以下のとおりです。

  • ソーシャルスキルトレーニング(SST):対人関係を円滑にする訓練
  • 相手の気持ちを汲む、非言語コミュニケーション:表情やジェスチャーの読み取り
  • アサーショントレーニング:自分の気持ちを適切に伝えるための自己表現を身につける
  • 社会ルールやマナーの習得:ビジネスマナーや公共の場での振る舞いなど

レクリエーションプログラム

レクリエーションプログラムとは、ストレス解消の方法や他人とのコミュニケーションの取り方を、ゲームやイベントなどを通じて学ぶプログラムです。プログラムには以下のようなレクリエーションが用いられます。

  • ゲーム大会:ゲームなどを通じて他人とコミュニケーションを取る
  • ダンス:リズム感を養いながら体を動かす
  • ウォーキング:運動不足の解消やリフレッシュなど
  • 各種イベント企画:文化祭やスポーツ大会などで他人との共同作業を学ぶ

就労に関するプログラム

将来的な就職を見据えて、仕事に必要なスキルを習得するためのプログラムです。実践的な内容が多く、就労移行支援へのステップとして活用されることも多いです。

主な支援内容は以下のとおりです。

  • 進路選択:自分に合った仕事や職場を見つける
  • ビジネスマナーの習得:身だしなみや挨拶、名刺交換、電話対応など
  • 履歴書作成:自己PRの書き方、志望動機の整理
  • キャリアデザイン:将来のキャリアプランを考える

自立訓練(生活訓練)の利用パターン

自立訓練(生活訓練)の大きな目的は、一人で自立した生活を送れるようになることですが、その目標を目指す理由や背景は人によって異なります。ここでは、自立訓練(生活訓練)の主な利用パターンを3つ紹介します。

特別支援学校卒業後の進路としての活用

特別支援学校を卒業した方の中には、すぐに就職を目指すのが難しい方もいます。そのような方には、自立訓練(生活訓練)が就職へ移行するステップになってくれるでしょう。生活やコミュニケーションの基礎だけでなく、社会で求められる時間管理やビジネスマナーも学ぶことができ、訓練を通じて仕事のシミュレーションもできます。

訓練後は、就労継続支援B型のような福祉的就労や、障害者雇用を目指すなど自分に合った働き方を選択します。

働く自信が持てない方が活用

発達障害などの精神疾患がある方の中には、高校や大学を卒業してすぐに社会に出ることに不安やギャップを感じる方も少なくありません。自立訓練(生活訓練)は、そうした方がある程度自信をつけるまでのモラトリアム期間(猶予期間)を過ごす場所としても活用できます。

仕事を始めるうえで大切なのは、無理なく続けられることです。就職に対して不安が大きい場合は急いで就職せずに、まずは自分のペースで社会や障害について学び、就労に向けた準備に取り組んでみてはいかがでしょうか。

リワーク支援としての活用

リワーク支援とは、うつ病や適応障害など心の病気で休職した方が、職場復帰を目指すためのプログラムのことです。リワーク支援は医療機関による医療行為の一環として行われる場合が多いですが、自立訓練(生活訓練)でも福祉サービスの枠組みから、リワークプログラムを提供している場合があります。

自立訓練(生活訓練)のリワークプログラムは、日常生活やコミュニケーションなどの面からのアプローチが手厚いのも特徴です。日常生活の中で、ストレスの対処法を学びたい方や、少しずつ仕事の感覚を取り戻したい方などに向いているでしょう。

自立訓練(生活訓練)の利用方法と手続きの流れ

自立訓練(生活訓練)を利用するには、自治体の窓口で手続きを行う必要があります。その際の一般的な手続きの流れは以下のとおりです。

  1. クリニックを受診する
  2. 利用する事業所を決める
  3. 障害福祉サービス受給者証を申請する
  4. 利用計画を作成する
  5. 障害福祉サービス受給者証を受け取る
  6. 利用契約を行う
  7. 利用開始

以下の記事では、注意点や必要な書類など、手続きの詳細を解説していますので併せてご覧ください。

自立訓練(生活訓練)とは?就労移行支援との違いや併用についても解説

自立訓練(生活訓練)とその他の支援サービスとの違い

障害がある方の生活の自立をサポートするサービスは、自立訓練(生活訓練)のほかにも 「就労移行支援」「就労継続支援(A型・B型)」「自立生活援助」「精神科のデイケア」 など、複数の種類があります。

ここでは、自立訓練(生活訓練)と、それらの支援サービスとの違いを解説します。

就労移行支援

就労移行支援とは、障害のある方が 一般企業への就職を目指すための福祉サービスです。一定期間、事業所で職業訓練などを受けながら、就職するために必要な能力やスキルを身につけます。自立訓練(生活訓練)と同じように障害への理解や対人コミュニケーションなども学びますが、あくまで就職を目指したプログラムを中心としているのが自立訓練(生活訓練)との大きな違いです。

就労継続支援

就労継続支援とは、一般就労が難しい方に継続的な就労の機会を提供することを目的とした支援サービスです。 「A型」と「B型」 の2種類があり、それぞれ以下のような特徴があります。

  • A型(雇用型):事業所と雇用契約を結び、最低賃金が保障された給与を得ながら働く
  • B型(非雇用型):雇用契約なしで、軽作業などを通じて工賃を得る

自立訓練(生活訓練)との違いは、就労に必要な知識やスキルの向上を目的としているところです。就労継続支援の利用後、就労移行支援を経て一般就労を目指す方もいます。

就労継続支援については以下の記事で詳しく紹介しています。併せてご覧ください。

就労継続支援A型とB型の違いとは?仕事内容や給与など8つの観点で解説

自立生活援助

自立生活援助とは、障害のある方が一人暮らしをするために、必要な生活力や安全確保のサポートを行う福祉サービスです。自立訓練(生活訓練)が自立した生活を送るための訓練を提供するのに対し、自立生活援助は定期的な訪問やスポットによる支援を組み合わせて提供されます。

訓練内容に大きな違いはありませんが、自立生活援助の場合は支援員がおおむね週1回、利用者の住居を訪問して支援をするのが特徴です。

精神科のデイケア

精神科のデイケアは、精神疾患がある方を対象に、通所型のリハビリテーションを行うものです。たとえば、生活リズムの維持や病気の再発や再入院の予防、集団に慣れるためのステップなどとして用いられます。

生活リズムの改善やコミュニケーションスキルの向上など、自立訓練(生活訓練)と似た内容のプログラムも実施されますが、利用はクリニックの受診や診断、医師によりデイケアの利用が必要と認められていることなどが条件です。このように精神科のデイケアは医療サービスである点が、福祉サービスである自立訓練(生活訓練)とは異なります。

Kaienの自立訓練(生活訓練)カリキュラム

Kaienの自立訓練(生活訓練)では、発達障害の方を中心に、他人との違いに悩んでいる方に向けてさまざまなカリキュラムを提供しています。カリキュラムには以下のようなものがあります。

  • 進路の設計:職場や働き方も含め、具体的な自分の進路を探す
  • コミュニケーション:具体的なコミュニケーション手法を学ぶ
  • 感情のコントロール:ストレスや不安、抑うつ的な感情などを緩和する方法を学ぶ
  • スケジュールやお金の管理:ツールを用いたスケジュール管理や支出の見える化など

ちなみに、カリキュラムの中には事業所の外に出て実際に職場に足を運んでみる見学・体験プログラムなど、常時100種類以上が用意されています。自分の視野や体験を広げる良い機会になるので、今まで思いつかなかった道が見つかるかもしれません。

Kaienの訓練内容例

実際にKaienの訓練内容の組み合わせを見てみましょう。ここでは障害状況が違う3名の利用者の事例を紹介します。

利用者障害状況訓練内容
Aさん軽度知的障害健康管理、家事訓練、余暇/レクリエーション
Bさん双極症健康/服薬管理、体力回復、社会生活技能訓練(SST)、金銭管理
Cさんうつ病、発達障害障害/特性理解、服薬管理、ストレスコントロール、社会生活技能訓練(SST)

訓練の組み合わせ内容は、利用者の状態や課題、目的によって変わってきます。カリキュラムに自分を当てはめるのではなく、組み合わせにより自分に最適な形を探せるので、改めて自分の課題に向き合えます。

Kaienの就労移行支援

Kaienでは発達障害の方に特化した就労移行支援も実施しており、就職に役立つ以下のようなプログラムを提供しています。

  • 就活支援:面接練習や独自求人の紹介
  • アセスメント:適職診断や現状の課題の理解
  • ペアトレ:家族向けのプログラムや、家庭内での実践スキルなど
  • PC実践スキル:WordやExcel、プログラミング、デザイン、生成AIのスキル習得など

Kaienの就労移行支援を利用して就職した方はこれまでに2,000人以上。全利用者のうち86%が就職しています。なお、Kaienの自立訓練(生活訓練)から移行することも可能です。

自立訓練(生活訓練)は自分に合うプログラムを選ぼう

自立訓練(生活訓練)を選ぶ際に大切なのは、自分の状態や課題、目的などに適したプログラムを受けられるサービスを選ぶことです。Kaienの自立訓練(生活訓練)のように、必要なカリキュラムを組み合わせられるタイプであれば、自分に合った訓練を効率的に受けられるでしょう。

自立訓練(生活訓練)は就労移行支援へのステップアップや一人暮らしの実現、社会復帰など、さまざまな道へ進む第一歩です。まずは自分に合ったプログラムを見つけ、無理のないペースで始めてみましょう。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われます。

監修者コメント

自立訓練(生活訓練)は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」に基づいて「障害者につき、自立した日常生活を営むことができるよう」(法第5条12項)*1) サービスを提供しています。

精神障害を持つ方の自立訓練は最大2年間(場合により3年間)とされていて、その内容は「入浴、排せつ及び食事等に関する自立した日常生活を営むために必要な訓練」となっています。

したがって、日常生活レベルがかなり低下した、障害年金の等級で言うと1または2級に相当する活動能力の方が利用することが想定されています。長年仕事から遠ざかって昼夜リズムが乱れてしまった方も、生活を立て直すために利用されると良いでしょう。

  1. https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_29_ko2_11_3_mhlw_b210.pdf
監修:中川 潤(医師)

東京医科歯科大学医学部卒。同大学院修了。博士(医学)。
東京・杉並区に「こころテラス・公園前クリニック」を開設し、中学生から成人まで診療している。
発達障害(ASD、ADHD)の診断・治療・支援に力を入れ、外国出身者の発達障害の診療にも英語で対応している。
社会システムにより精神障害の概念が変わることに興味を持ち、社会学・経済学・宗教史を研究し、診療に実践している。


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