自己分析、受容を経て等身大の自分を受け入れるまで

Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。

今回取り上げるのは、再就職して4年働き続けているSさん。生きにくさを抱え、自己破壊衝動などの苦しみからの自己分析、自己受容を経て自分の許し方に出会えるまでの過程、現在実践している具体的な気分転換の方法や職場での振る舞い方について、お話いただきました。

インタビュー実施日:2024年9月7日


等身大の自分を受け入れるまで

最初に「プライドの拡大・縮小による心の保ち方」について説明します。私は、プライドを常に高く設定しなければならないと無意識に思い込んでおり、そのことに気付けていないことが生きづらさに繋がっていました。

プライドが高過ぎる状態では、何かうまくいかない物事があったときに自尊心が過剰に傷ついてしまいます。

そして、プライドが実際の身の丈以上に高いと、できなくて当たり前なことをできなかったとき、本来は受ける必要のない精神的なダメージが発生します。理想の高さと現実の落差が大きくなるからです。

そこで、まずは自分のプライドの高さによるつまづきを自覚することが必要でした。

「自信家ほど挫折したときの立ち直りが難しい」という課題

(高校の部活動以来、12年ぶりに空手を始めたというSさん。「大きな声を出して体を動かすので、発散になりスッキリした気分になれます。否応なしに自分の弱さと向きあうことになるため、心身ともに成長できるいい場だと思っています」とのこと)

プライドが高過ぎると自分に対する要求も高過ぎてしまうため、できない自分を認めてあげられない傾向があります。弱い自分を認めてしまうと、自分がすがっている空想上のできる自分や、自分で高くしてしまった理想像が揺らいでしまうからだと思います。

プライドを下げられずにいると、どんどん自尊感情が傷ついて、いつか倒れてしまいます。そのため、認知の歪みに気付き、プライドの高さの修正が必要なのです。

プライドの高さによる違和感を認識できたら、等身大の自分に見合った高さに調整しやすくなるでしょう。

生きづらさの解消に「自分自身を愛していい」という発見が必要 

誰かを愛するためには、その対象をよく知る必要があります。愛するようになればもっと相手のことを知りたいと思うようにもなるでしょう。

恋愛の場合、何も知らない相手に惹かれることは少ないと思います。自分の好みに当てはまるときや、意外な一面を知ったときに惹かれることが多いでしょう。そして、愛し方として「相手の好みを把握して、プレゼントを選ぶ」といった工夫をすると思います。

自分自身を愛するにはどうすれば良いのかという場合も、同じことをすれば良いのです。

最初に行うことは対象をよく知ることです。自分なりに自分自身を測って、自分のことを知りましょう。自分の命の価値を自覚することで、自分で自分を愛せることにつながります。他者からの指摘や周囲の反応を過度に恐れる必要はないことも知ってほしいです。

私の話で、今悩んでいる人が、自分のプライドの取り扱い方を覚えて、自分で自分を愛せるようになっていただけると嬉しく思います。

苦手なことは正直に伝え、長所を武器に貢献する

続いては、職場への自分の強みや特性の伝え方についてです。

私は聴覚情報の保持と整理が苦手なことを伝え、電話応対を免除していただきました。業務指示を受けるときには、メモ書きによる指示の見える化をお願いしています。

強みとしては、書き言葉が比較的得意なことを武器にして業務に取り組んでいます。

例えば、社内で共通のCAD(図面作成ソフト)のマニュアルがなかったため、作成しました。口頭による説明のみによって引き継がれていた業務内容や資材・機材の使い方を、誰が見てもスムーズに理解できるように指示書の作成を行いました。

体調不良時も、素直に申し出ることが大事

体調不良時の工夫もご紹介します。調子が少しでも悪いなと思ったら、すぐ上司に「精神的に不安になってしまい、気分転換が必要です」と伝えています。そしてあらかじめ見つけておいた自分が落ち着く場所に移動します。

そこでは心を落ち着かせるルーティンを行って、体調のコントロールに挑戦しています。

集中力が低くても、工夫によって維持できる

次は、集中力を維持する方法を紹介します。私はあまり集中力がありません。そこで、意図的に作業を中断して、メリハリをつけて業務に向き合っています。

一例として、パソコンのデスクトップの背景を10〜15枚ほどの画像を設定し、時間間隔1分のスライドショーにし、特定の画像が表示されているときは、作業を止める方法を実践しています。

ポモドーロテクニックという25分〜30分おきに5分間の小休止を取る方法もおすすめです。このときは完全に業務のことを忘れて休憩すると良いでしょう。

休憩中は、可能であれば離席することが望ましいです。作業のキリが悪くても作業を中断して休憩を取ることが大切です。ダラダラとデスクで作業しているつもりにならないように気を付けています。

気力も体力もないときの自宅での「リフレッシュ・気分転換」

業務時間外のリフレッシュ・気分転換も重要なテーマです。気力も体力もないときは、リラックスチェアを用意して、心が落ち着く音楽を聴いています。アロマを炊いたり、蒸気が出るアイマスクを使ったりすると、さらにリラックスできるのでおすすめです。

このやり方のコツは二つあります。一つ目は絶対に仕事のことや悩みをリラックスチェアまで持ち込まないこと。二つ目は、リラックスしたいとき以外はリラックスチェアに座らないことです。読書やゲームなどの娯楽の場としては使わないようにするのです。

リラックスしたいとき以外はチェアを折りたたんでおき、すぐ出せる場所にしまいます。

理由は「チェアに座る=リラックス」という条件反射を作るためで、それ以外の作業をしないようにしています。この条件反射が形成された結果、チェアに座って数分間でリラックスできるようになりました。

体力があるときの「リフレッシュ・気分転換」

(「気分転換にダーツをして遊ぶことが多いですが、中心に命中したときの効果音が癖になり、なかなかの快感です。精神的に不安定な状態でダーツをすると全く上手くいかないため、自分の精神状態に気が付くキッカケになることもよくあります」とSさん)

次に、体力があるときに気力を養っている方法を紹介します。自転車に乗って少し遠出をしたり、カメラを持って降りたことない駅でわざと迷子になったりすることが刺激になり、回復につながっています。

他に、自宅でできるリフレッシュとしては、ひたすら筋トレをしたり、ダーツを投げたりすること等の手段があります。どちらも無心になって行うことで、動きながら行う座禅のような側面があり、効果が得られると思っています。

衝動的な行為はやめられるのか

責めの矢印が自分に向いてしまった場合「衝動的な自傷行為」はやめられるのでしょうか?

私自身はその行為について肯定的な立場でも否定的な立場でもありません。やめられるのであればやめたほうが良いとは思いますが、それでなんとか精神を保って踏みとどまることができる人もいます。私もそのような経験があるので、やむを得ないときもあると思っています。

私の場合、衝動的な自傷を防ぐためには、別の方向で体を刺激するのが効果的でした。腕立て伏せでもスクワットでも、動けなくなるまで筋トレをしてみるのが良かったです。体に負荷がかかりますが、サウナも効果がありました。それでもダメな場合は限界まで息を止めてみるのも、ある程度衝動が収まって気持ちが紛れます。

頭に鉛がこびりついたような、モヤモヤする感覚をはがしたくて自傷行為を選択してしまう場合、リラックス状態になれるように心と体に調整を入れるのが大事だと思います。

先ほど紹介したリラックスチェアによるリフレッシュや、鎮静系の効果があるアロマの使用が私にはかなりの効果がありました。

再就職四年目の感想とアドバイス

(「上司に相談・了承を得て、時間管理アイテムであるポモドーロタイマーを使用しています。5分の小休止時には、癒しアイテムであるペンギンのぬいぐるみや、ロボットのオモチャを触るなどしてリラックスするようにしています。体調によって周囲の音が気になり、仕事に集中することが難しくなってしまうことがあるため、合理的配慮の一つとして遮音用イヤマフを使うこともあり、集中の維持に役立っています」とSさん)

私はたまたま、就労環境や上司・先輩に恵まれました。困りごとが生じた都度、職場に相談や要望をお伝えした上で、合理的配慮もたくさんしていただいています。どれかが欠けていたら、ここまで続けられていなかったでしょう。

この記事を読んでいる方はご存知かもしれませんが、メンタルは不可逆です。一度壊すと元に戻すことが大変難しいため、くれぐれも無理をしないでほしいです。

例えば、お気に入りの道具で仕事をするようなことでも効果があります。能力を発揮するためには、環境を整えることが第一だと思い、キーボードとマウスにかなりこだわりを持っています。毎日触る仕事道具は、納得して購入した使い心地のいいものにすると自然と仕事に対するモチベーションも上がる気がします。

私はキーボードとトラックボールマウスを持ち込んで仕事をしています。トラックボールマウスは多動気味な人にもおすすめです。ボールペンをカチカチしてしまうより、マウスのボールをコロコロ転がしている方が静かですし、気持ちも紛れると思います。

生きていることに特に理由を求めなくていい

生きづらさに悩む人は、生きることにそれほど理由を求めなくてもいいと思います。生きる意味を見つけたなら、それはそれで素晴らしいことでしょう。しかし、特に理由がなくても、惰性でもそのまま生きていくことも悪くはないかなと思っています。

私は自己分析と受容を続け、認知の歪みを確認し、等身大の自分を把握することで自分を以前よりは認めてあげられるようになれました。そこまではかなりハードな道のりでしたが、条件反射的にリフレッシュできるルーティンを作り、ストレスの解消に役立てられたことは大きな力になりました。強い衝動が来たとき、自分なりにやり過ごす方法も見付けられれば、かなりラクになりますよ。

所属拠点:Kaien秋葉原

※インタビュー内容については、表現を一部改変しています。

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