▪年齢:30代前半 ▪診断名:うつ、適応障害、不安障害 ▪特性/苦手:対人コミュニケーション、白黒思考、不安感が強い ▪就職:事務補助 |
「観察の虫」だった幼少期
ーーー幼い頃はどんなお子さんでしたか?
小さい頃は、常に人と違うところを見ている変な子でした。
他の人が見ていないところをじっと観察していたり、周囲の会話や出来事を細かく記憶していたりしました。例えば、「この場所にこんなお店があったよね」とか、「この人はこういう感じじゃないかな」といった記憶が、大体当たっていることが多かったです。
ーーーご自身の性格を一言で表すと?
努力の虫とか練習の虫とか言いますよね? 私は「観察の虫」なのだと思います。
ーーー周囲と自分が違うと感じたことや具体的なエピソードを教えてください
保育園の頃、園児同士でトラブルがあったとき、私は時系列で状況を整理して、「誰が本当のことを言っているか」「何が事実か」を全部話して解決に導いたことがあります。
輪に入らなかったからこそ、トラブルを冷静に観察していて解決できたのだと思います。
しかし、観察が得意な一方で、他人との雑談や複数人で何かをするのが苦手です。
人数が増えると、室内の騒がしさや混雑がストレスになります。また、自分の気持ちをなかなか口に出せない家庭で育った影響もあり、相談すること自体が苦手で、一人で抱え込んでしまうことが多かったです。
迷いと模索の日々〜Kaienとの出会い〜
ーーーKaienに入る前はどんなことをされていましたか?
理系の大学院を中退後、学歴と関係ある仕事も、そうでない仕事も経験しましたが、どの職場でも人間関係がうまくいかないことが多かったです。
ーーー職場での人間関係のこじれについて、自分なりの答えは見出せましたか?
具体的にどこが問題だったのかは今でもよく分かりません。
ただ、私は黙々と作業をしたいタイプで、「仕事は仕事。お金を稼ぐところであって、楽しむ場所ではない」という考え方が強かったです。「遊ぶところじゃないし、ちゃんとしようよ」という気持ちがあり、そういった自分の中の正義感みたいなものが、周りの人には窮屈に感じられたのかもしれません。
ーーーKaienで生活訓練を始めようと思ったきっかけは?
きっかけは、最後の職場を休職中、YouTubeでKaienの生活訓練の徹底ガイドを見たことです。
どの職場でも人間関係がうまくいかず、「どうして私はどこに行ってもいじめられるんだろう?」と悩んでいたため、自分を見つめ直す必要があると感じました。
ーーー生活訓練の目的・目標は?
生活リズムの改善と就職でした。
当時は完全に昼夜逆転しており、午後3時に起きて、翌朝5時まで起きているような生活でした。誰にも何も言われない環境だったので、夜中ずっと起きていることが普通でしたが、このままでは働けないと思い、生活リズムを整えたいと考えました。
ーーーどのように生活リズムを改善しましたか?
とにかく午前の通所に間に合うように、半年ほどかけて、まずは眠れなくても寝ずに通所する、という形でリズムを整えていきました。
そのうち、通所できたときの先々のメリット、逆に通所できなかったときのデメリットを考えていくと、「よし、やってやろう」という気持ちになってきたんです。
最初は本当に大変で、起きている時間が長すぎて、途中で充電切れになることもありましたが、繰り返していくことで生活リズムが整い、普通になりました。今でもたまに夜更かししたくなる時はありますが(笑)。
社会人として働いている方々と同じ生活時間帯で過ごすことが普通になってくると「自分は置いてけぼりにされてないぞ」みたいな感じはありました。
ーーー生活訓練を通じて、苦手なことや特性について対策を見つけられましたか?
他人との雑談や、複数人で何かをするのが苦手なのは変わらないです。ただ、気を使いすぎて自分に無理をさせないことも対策の一つかなと思っています。
また、口頭で相談すると顔色や雰囲気をうかがってしまい、余計に相談しづらくなるので、文字で相談するという方法を見つけました。
文字なら相手の表情や雰囲気を気にせずに悩みを伝えられ、気持ちを整理しながら相談できるので、役立っています。
ーーー生活訓練を通じて学んだことや、今後働く上で役立つと思ったことは?
最も長く取り組んでいたのは自分史作成です。自分の歴史を整理して、自己理解を深めるための作業でした。自分の納得いく形で作業を終えられたので、達成感があります。
楽しかったことやつらかったこと、印象に残っているエピソードなどを整理していきました。私の場合は嫌な記憶のほうが多かったので、わざわざ思い出して具体的に書き出す過程はつらかったです。
ただし、自分の頭からなかなか離れない嫌な記憶や、今考えていることを文字として書き出すと、自分の頭の中のフォルダが移動するような感覚がありました。自分の頭がそういう仕組みになっていることを知らなかったので、書くことで思い出しにくくなるのは大きな発見でした。
これまでずっと嫌な記憶に囚われていたけど、書き出したことで、それが過去のものとして整理されていく感じがありました。
職場で、もし嫌なことがあっても書き出せば思い出しにくくなりそうなので、切り替えたいときに切り替えやすくなると思います。
ーーー生活訓練を通して、ご自身が変わったと感じることはありますか?
コミュニケーションを諦めなくなったことです。以前は、相談できないと感じると、すぐに口をつぐんでしまうようなところがありました。
相手の反応を気にして話せなかった場面でも、何かしらの手段を使って伝えようとする姿勢が持てるようになりました。
ーーー自信をつけるために挑戦したことは?
「人が怖くて相談できない」ことが自分にとって大きな課題だと思っていたので、克服するために人に相談をする練習をしました。
練習相手はパートナーを選びました。
私のパートナーは忙しくてなかなかゆっくり話す機会もなかったのですが、そのため、限られた時間の中で簡潔に伝える練習ができました。
目標は長く働いて「ようこそ先輩」に登壇!就職した経緯とは
ーーー就労移行支援をせずに就職された経緯や理由を教えてください。
求職中に生活訓練の徹底ガイドを見て、障害がある場合、条件に該当し「就職困難者」としてハローワーク(公共職業安定所)で手続きをすると、雇用保険の基本手当の給付期間が長いことを知りました。
そのため、当初は傷病手当金だけで求職中の期間をやりくりしようと考えていましたが、後に失業手当(失業給付金)をもらいながら、就労移行支援の見学や体験にも行ってみました。
見学を通じて、自分が考える職場環境を見つけることが重要だと感じました。その結果、自分にとっては、直接就職活動を進めるのが最適な選択だと判断しました。
ーーー就職活動はどのように進めましたか?
2月末に生活訓練を開始して、半年ほど経った8月末から本格的に就職活動を始めました。
実習面談会は1人3社まで応募できる仕組みだったので、2回の機会を利用して合計6社と面談しました。
受かる受からないに関係なく、ここで話をしなかったら一生関わることがないかもしれない企業ばかりで、とりあえず話をしてみたいという好奇心がありました。
面談会は完全予約制で、書類選考なしでいきなり面談する形式だったので、実習ができるかどうかが企業側の判断に委ねられる仕組みでした。そのため、「どこで働きたいか」よりも「相性で決まる」という感覚でしたね。
ーーー選考企業の中で避けた業種や条件はありますか?
軽作業系は避けました。以前の職場で腰痛を経験しているので、また同じことを繰り返したくなかったからです。
また、通勤の負担を考えて、電車の混雑がストレスになる場所にある企業は避け、通いやすい場所を選ぶことを優先しました。
収入の面は特に気にしていませんでした。パートナーもいるし、一人暮らしをする野心もないので、収入は少しずつ上がっていけばいいと考えています。
ーーー現在の職場はどんなお仕事ですか?
総務部に配属され、事務補助を担当しています。業種は建設業です。
もともと大学では建築を学んでいましたが、今の仕事は土木系の仕事がメインです。職場の大半が男性ですが、性別による話しやすさの違いは特にありません。
ーーーこれまでの職場では人間関係のトラブルがあったとのことですが、新しい職場ではその点をどう考えていますか?
過去を振り返ると、どの職場でも特定の世代とぶつかることが多かったように思います。
新しい職場でも特定の世代と同じような年齢の人と話すときは、少し緊張してしまいます。
同じ年齢の人が多い職場では、彼らの中で話がまとまってしまいやすいので、そこに入るのが難しくなってしまうのだと思います。
ーーー今の職場では何か対策をしていますか?
今の職場には、過去にいじめを受けてきたことを伝えています。
もし同じようなことが起きるようなら、担当医から「休職の書類を書くからね」と言われているので、無理はしないつもりです。
ーーー今後挑戦したいことや目標を教えてください
長く働いて、最終的には「ようこそ先輩」に登壇することです。
「ようこそ先輩」は、障害者雇用で働いている人が、どんな仕事をしているのか、どんな職場環境なのか、どんな配慮を受けているのかを後輩たちに伝える場です。
Kaienでの経験や職場での出来事を共有することで、これから就職を目指す訓練生の参考になればと思っています。
付録 〜Yさんのこと~
ミックスの猫を飼っているので、平日は一緒に過ごせない分、休日は布団の中で猫と一緒にダラダラ過ごすのが好きです。また、パートナーと出かけたり、お話ししたりする時間も大切にしています。
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