“目に見える成功体験”が変わるきっかけに!人生に対して前向きになったSさんが取り組んだこと

▪年齢:30代後半
▪診断名:ADHD、ASD
▪仕事における苦手なこと:マルチタスク
▪現在の状況:就労移行支援で訓練中


発達障害*の診断を受けて、「とてもほっとした

―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?

落ち着きのない、手のかかる子どもでした。小学生の頃は授業中に立ち上がってどこかに行ってしまい、母が先生から注意を受けたこともあります。

小学生のときは、あまり頑張らなくても勉強がよくできたのですが、中学生になってからは全くついていけなくなりました。予習・復習が苦手で、集中力もなかったので、どんどん成績が落ちたのです。

中高大一貫校に進んだので中学から高校への進学はできたものの、人間関係でつまづき、高校1年生の終わり頃に中退しました。

―――周囲と自分は何か違うと感じたことはありますか?

子どもの頃から周囲との違いを感じていました。例えば、学生の頃は“友達とワイワイするのが楽しい”と感じる人も多いと思うのですが、私は全く楽しくなく、なるべく早く家に帰って一人で何かをする方が好きでした。

学園祭などの行事のときも、みんなが力を合わせて一生懸命に取り組んでいる中で、私はいい加減な姿勢で取り組んでいたのを覚えています。自分の立場を考えた言動ができていなかったので、クラスになじめないことが多かったです。

―――ご自身の性格を一言で表すなら、どんな性格だと思いますか?

特にコミュニケーション面でのこだわりが強く、頑固な一面があると思っています。私は周りの人の礼儀作法が気になるので、朝のあいさつをしない人や他の人が話しているときに話を被せてくる人を見ると、腹を立ててしまうことがあります。

大人になるにつれて他人の礼儀作法へのこだわりは落ち着きましたが、最近は「私自身が無礼なことをしたのではないか」と自分の言動を振り返って悶々と悩んでしまうことが多いです。

―――診断名と苦手なことを教えてください。

診断名は不安神経症、ADHD、ASDです。苦手なことはマルチタスクです。仕事では複数のタスクを抱えることがよくあると思うのですが、私はうまく優先順位がつけられず、焦って何もできなくなってしまいます。

マルチタスクの不得手さを実感したのは、大学の看護学部に通っていたときです。2〜3ヶ月の間に約10箇所の病院へ実習に行ったのですが、実習先での勉強に加えて、次の実習に向けた準備をする必要がありました。

しかし、私は計画的に取り組むことができず、最終的に何も手につかなくなってしまいました。周りの人にサポートしてもらったこともありましたが、それでもうまくいかず、追い詰められている状態になってしまったのです。そこで体調を崩し、病院で受診するに至りました。

最初にかかった病院では不安神経症と診断され、大学を休学してデイケアに通い始めました。そのデイケアの担当者に勧められて、後から発達障害の検査を受けました。発達障害の診断を受けたときは、「何十年も悩んでいたことの答えが出た」と、とてもほっとしたのを覚えています。

訓練を通して、心身ともに安定した状態に

―――Kaienの生活訓練を始めようと思ったきっかけは何ですか?

Kaienは、デイケアの担当者から紹介されました。正直なところ、私はすぐに就労移行支援に行きたいと思っていたので、生活訓練にはあまり乗り気ではありませんでした。

ただ、「週3日しか活動できない今の状態での就労移行支援は難しい」とはっきり言っていただいたことで、生活を立て直すことから始めてみようと思えるようになりました。

―――生活訓練の「プロジェクト」では、どのようなことに取り組まれていましたか?

最初に取り組んだのは、家の大掃除です。私の部屋は何年もゴミ屋敷のような状態だったのですが、この大掃除できれいに片付きました。

Kaienに通い始めた頃は、まだ生活訓練に対してあまり前向きではありませんでした。しかし、大掃除を通して目に見える成功体験を積めたことで一変し、「自分の生活を改善したいな」と生活訓練に対して前向きな気持ちを持てるようになったのです。

―――訓練を通して、ご自身が変わったと思うことはありますか?

大掃除の次は、TOEICに向けて英語の勉強に取り組んだのですが、そのおかげで勉強することが習慣になり、生活リズムが整ったのです。生活が規則正しくなったおかげで、体調がどんどんよくなっていきました。

英語の勉強を選んだのは、私の留学経験が背景にあります。10年以上前なので英語はほとんど忘れてしまっていましたが、「もう一度勉強し直せば、将来的に何かにつながるかもしれない」と思い、勉強することにしました。

プロジェクトでは、取り組んだ感想をパワーポイントにまとめて、他の訓練生の前で発表する機会もありました。私は“他人からよく見られたい”という気持ちが強いので、発表の機会があることでプロジェクトにもより身が入りました。

昼間はKaienに通い、帰宅後は勉強をする生活を続けるうちに、ダラダラと過ごす時間が減りました。

―――訓練を通して学んだことや、今後働く上でも役に立つと思う知識やスキルを教えてください。

人に頼ることを学びました。今までは劣等感が強かったので、「自分で何とかしなくちゃいけない」と思う気持ちが強くありました。しかし、Kaienでは担当者にいろいろな相談ができて、アドバイスをもらいながら計画的に一歩ずつ前に進めました。この経験を通して、「きちんと人に頼ることができれば、今後の人生においても道が開けるな」と思えるようになりました。

「これから先も、居心地の悪さを感じながら社会に出なければならないのか」と常に不安だったので、いろいろな人の知恵を借りれば自分の居場所を作れるかもしれないと気付けたことは、大きな学びとなりました。

―――訓練で印象に残っていることはありますか?

今後の計画立てと振り返り、改善を行う機会として、スタッフの方と相談して2週間に一度面談を行ってもらっていたのですが、それが印象に強く残っています。目標にしたことの中で、何をどのくらい達成したのかを確認できることが、とても楽しかったのです。

他の人から見れば些細な生活習慣の改善かもしれませんが、私にとっては「この歳でもまだまだ成長できるんだ」と実感できるきわめて良い時間でした。

苦手なことも、自分なりに乗り越えていきたい

―――現在は就労移行支援に移られていますが、直近ではどのようなことに取り組まれていますか?

「週替(しゅうがわり)Lite」というコースで事務作業に取り組んだ後、「週替(しゅうがわり)」コースに移って提案資料を作っているところです。提案資料のような正解がない物事に取り組むのはあまり得意ではなく、ときには失敗することもありますが、日々自分の強みや弱みを発見できているなと感じています。

―――今後達成したいことや、目標があれば教えてください。

就労移行支援では、これからグループワークにも取り組む予定です。グループワーク自体あまり経験がありませんし、協調性が必要なことには自信がないので、作業に慣れるまでには時間がかかるかもしれません。しかし、地道に取り組み続けて、少しずつ乗り越えていけたらいいなと考えています。

また、生活訓練で行っていたTOEICに向けた英語の勉強を、今も続けています。就労移行支援を終えるまでに、850点を取りたいです。

付録  ~Sさんのこと~

(「料理もしますよ」とSさん)

Kaienの生活訓練をきっかけに、学習意欲が湧くようになりました。もともと日本史や世界史が好きだったこともあり、最近は歴史関連の本を読んだり、SNSで発信をしている方の動画を見たりしています。大掃除を機に部屋をきれいに保てるようになったので、勉強がはかどっています。

また、Kaienで知り合った方がチェスのサークルを運営しており、休みの日にはそのサークルにも時々参加しています。


※インタビュー内容については、表現を一部改変しています。

*発達障害は現在、DSM-5では神経発達症、ICD-11では神経発達症群と言われています。

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