▪年齢:20代半ば ▪診断名:ASD ▪特性/苦手:緊張感が高め、見通しを立てる・想像するのが苦手 ▪出口:Kaienの就労移行支援 |
初めての場面で強く緊張してしまう
―――幼い頃はどんなお子さんでしたか?
周りの大人から褒められることが多く、「よく気がつかえる」「マナーがきちんとしている」と言われていました。
しかし同年代の子どもとはあまり仲良くなれず、同級生とのコミュニケーションは苦手でした。単語の誤用を指摘せずにはいられないなどこだわりが強く、人間関係を築く上で支障になっていたのだと思います。気分が良いときと悪いときの波も激しかったですね。
みんなで仲良くしているクラスメイトと比べて、自分はうまく人と関われていないと感じていました。
―――診断名と苦手なことを教えてください。
中学生の頃、ASDと診断されました。不登校になったことをきっかけに、精神科を受診したのがきっかけでした。
初めてのことに対する緊張感が強く、日常生活でも「失敗したらどうしよう」と過剰に不安になってしまうことが多いです。例えば市役所で担当の課や手続きが以前と違うと怖さを感じたり、緊張してしまって自分から人に話しかけられなかったりといったことがあります。どのように物事が進むのか、事前に想定できない状況が苦手なのだと思います。
見通しやスケジュールを立てるのも不得意で、学校の長期休暇の課題は一度も期限内に終えられませんでした。
―――Kaienにつながる前はどんなことをしていましたか?
高校卒業後は就職せず、引きこもりの期間がありました。就労継続支援B型や地域若者サポートステーションに登録しましたが、就労に向けた具体的な行動はできませんでした。
就労継続支援B型を辞めてしまった理由は、環境の不一致の積み重ねです。引きこもっていたときに生活リズムが崩れて朝にきちんと起きられず、通所自体がつらくなってしまいました。事業所から様子を尋ねられた際につい「大丈夫です」と答えてしまい、調子の悪さを言い出せなかったことも、足が遠のいた原因でした。
自立した生活を目指して訓練を続け、生活リズムが改善
―――Kaienで生活訓練を始めようと思ったきっかけを教えてください。
Kaienを知ったきっかけは、地域若者サポートステーションからの紹介です。プログラムの時間割がある程度決まっていて学校に近く、自立訓練(生活訓練)の後に就労移行支援に移れるため無理なく就労を目指せると感じました。
話を聞く前は生活訓練がどのようなものか知りませんでしたが、相談会で僕の状況を踏まえた提案をいただき、自然と挑戦してみようという気持ちになりました。
―――訓練で達成したい目標を教えてください。
社会に出て経済的に自立し、家族に迷惑をかけない生活を送ることです。そのためにも、まずは生活訓練を受けて就労移行支援に通う基盤を整えることが目標でした。
今は実家で暮らしていますが、将来的には一人暮らしをしたいと考えています。
―――生活訓練では主にどんなことをしましたか?
まずは生活リズムの安定化を目指し、週3日の通所から始めました。徐々に日数を増やして現在は週5日通所しており、訓練開始前よりも生活リズムが安定しています。週に1回の面談で相談しながら進められるので、精神的な負担もあまり感じませんでした。
午前中はオンライン講座で、挨拶や会話、人との距離感など、対人コミュニケーションについて学ぶことが多いです。講座を受けない日は個人ワークで、タイピング練習やエクセルの勉強、ビジネスメールの書き方など、パソコンの練習をしています。
自分で自由に課題を設定して改善を目指す「プロジェクト」にも取り組み、夜の時間の過ごし方についての目標を設定しました。今の生活の課題点を書き出すことで、具体的に直すべき行動が自覚できたと感じています。
人との関わりができ、将来に対しても前向きに
―――生活訓練で特に印象に残っていることは何ですか?
「FKサポーター」といって事業所内の仕事の手伝いをすることがあり、ファイリングや清掃マニュアル改訂などを行いました。訓練が修了した後も形に残るものなので、大きな達成感がありましたね。
また、月に1回テーマを設定してレクリエーション活動を行う「余暇充実体験会」も心に残っています。プログラムの中で「GRAND GREEN OSAKA」という施設を紹介したところスタッフの方に興味を持ってもらえたため、企画をつくってみんなで訪れました。自分の提案が受け入れられて実現したことが、とても嬉しく感じました。
―――訓練の中で、特に現在や今後に役立つと感じることは何でしょうか?
知識・スキル面では、メールの作成やスプレッドシート上の日報作成などが役に立っています。特に日報では今日やることのリストをつくる習慣ができ、今後の就労移行支援や仕事にも活用できると感じています。
心構えの面では、とにかくやらなければ何も始まらないことを学びました。訓練開始直後は「自由にやることを決めてください」と言われても、どうしたらよいか悩んでしまってなかなか動けませんでした。しかし自分に必要なものを能動的に探さなければ何も進まないことに気づいてからは、ひとまずほかの訓練生がどのようなプロジェクトを行っているのか見てみるなど、少しずつ行動できるようになりました。
―――訓練開始前に比べてご自身が変わったと思うことはありますか?
以前より、周りの人への質問ができるようになりました。スタッフの方に何を聞いても丁寧に答えてくださり、質問のハードルの低さがありがたかったです。
ほかの訓練生との会話を通して、人の意見や考え方を聞けるようにもなりました。生い立ちや、将来的な目標に向けて今頑張っていることなどを聞くと、とても参考になります。
引きこもっていたときは漠然とした焦りや不安感がありましたが、生活訓練を通して気持ちに余裕ができました。一つずつ目標を達成する経験を積んで自信がつき、将来についても前向きに考えられるようになったと思います。
修了後は就労移行支援で自分に合う職場を見つけたい
―――もうすぐ生活訓練を修了するそうですが、今後の目標や挑戦したいことはありますか?
生活訓練で取り組んだことや学びをまとめて最終日に発表するつもりで、準備をしています。
修了後はKaienの就労移行支援に移行する予定です。将来の目標はまだぼんやりしていますが、就労移行支援ではどのような方向性で働きたいのかを追求し、自分に合う職場を探したいと考えています。
付録 ~Sさんのこと~
訓練が終わった後に、よく散歩をしています。休日は興味のあることについて調べ物をして過ごすことが多いですね。
今年のはじめには、合宿で運転免許を取りました。訓練を通してある程度生活環境を整えられたからこそ、取得できたと感じています。
人気の記事はこちら
-
2024.12.25
自己分析が、自分を知るきっかけに!Oさんが“第一希望の会社”に就職できた理由
▪年齢:40代後半▪診断名:ASD▪仕事における苦手なこと:臨機応変な対応、口頭指示、同時並行で作業を行う▪就職:専門職(IT・障害枠) 仕事で出会ったお子さんが、幼少期の自分と重なった ―――幼い頃はどんなお子さんでし […]
-
2024.12.9
ポイントは「少しずつ」。口頭指示の理解やマルチタスクが苦手なSさんが見つけた対策
▪年齢:20代前半▪診断名:ASD▪仕事における苦手なこと:口頭での指示理解、マルチタスク▪就職した職種:事務職(障害枠) 口頭での指示の理解やマルチタスクが苦手 ―――幼い頃はどんなお子さんでしたか? ミニカーやテレビ […]
-
2025.1.24
社会に出てから発達障害と診断されたHさん。「働けない」と思ったがKaienに入所して希望が湧いた
Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。 […]
-
2025.1.24
自己分析、受容を経て等身大の自分を受け入れるまで
Kaienで実施しているプログラムの一つである『ようこそ先輩』は、Kaienの就労移行支援を修了し、実際に働かれている先輩方の生のお話を聴ける会です。本記事は、そのインタビュー動画の内容を編集し、記事にまとめています。 […]
-
2025.1.15
「自分の特性を認めてもらえる職場を探す」Kさんが気付いた、自分らしく働く道
▪年齢:40代後半▪診断名:ADHD、ASD▪特性・苦手なこと:物をよく無くす、空気を読むのが苦手、協調性はあまりない、冗談を真に受けてしまう▪現在の職種:軽作業 不眠の相談とともに、発達障害*の検査も ―――幼い頃はど […]
-
2025.1.10
自分の長所を見つけられずにいたYさん。訓練の成果が自信に
▪年齢:30代前半▪診断名:ADHD、双極性障害▪仕事における苦手なこと:マルチタスク、聴覚情報の処理、空気を読むこと、片付け、金銭管理▪就職した職種:事務職(障害者枠) マルチタスクや聴覚情報の処理が特に苦手 ―――幼 […]
まずはお気軽に
見学・個別相談会に
来てみませんか?
当社サービスの説明、事業所見学、個別相談を行っています。全体で約1時間。参加は無料です。
日によっては当日体験も可能。ご家族、支援者の方の同席もできます。ぜひお気軽にご来所ください。